『数学者たちの楽園 「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち』 サイモン・シン著

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数学者たちの楽園

『数学者たちの楽園』

著者
サイモン・シン [著]/青木 薫 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
自然科学/数学
ISBN
9784105393069
発売日
2016/05/27
価格
2,592円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『数学者たちの楽園 「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち』 サイモン・シン著

[レビュアー] 青山七恵(作家)

アニメでも直感を発揮

 一九八九年の放送開始以来、今や二十以上の言語に翻訳・放映されているアメリカの長寿アニメ『ザ・シンプソンズ』。決して品行方正とはいえないシンプソン一家によるブラックジョーク満載のドタバタ劇なのだが、深夜のチャンネルザッピングでこのアニメを目にすると(日本ではケーブルテレビで視聴可能)、私はついつい釘(くぎ)付けになって最後まで見入ってしまう。

 しかし驚いた。本著によると、なんとこの番組の脚本家チームは、名門大学で数学関連の学士号や博士号を持つ数学エリートだらけだというのだ! アニメと数学? 一見共通点がなさそうだけれど、彼らの言葉を借りれば「アニメは純粋数学に似ている」。またある脚本家はより具体的に、数学的証明とコメディーの脚本書きに共通するのはどちらも直感が重要であること、そして目的地にたどり着けるという保証はないということだと主張する。長く厳密な論理の世界に生きてきた彼らだからこそ、ナンセンスの可笑(おか)しみや視聴者を強く惹(ひ)きつけるパズルのような巧妙な展開を追求できるわけだ。

 そんな脚本家チームの面々は、己の数学に対する愛情をこれでもかというほどアニメに注ぎ込む。何気なく映った野球場のスクリーンに表示されている数字がメルセンヌ素数や完全数といった特殊な個性を持つ数字だったり、時には一つのエピソード全体が数学界の偉人に捧(ささ)げるオマージュになっていたりもするそうだ。

 数学を扱ったノンフィクション『フェルマーの最終定理』でも知られる著者は、脚本家たちの興味深い生き様だけでなく、奇妙かつエレガントな数の世界自体の魅力も余すところなく伝えている。最後には数学ジョーク集のおまけつき。悲しいかな、文系の私が笑えたのはわずか数問だったけれど、脚本家たちが愛してやまない数の世界にはすっかり魅了されてしまった。もう一度十代の柔らかい頭脳を取り戻して、πや微積分を勉強しなおしたい! 青木薫訳。

 ◇Simon Singh=1964年、英サマーセット州生まれ。サイエンス・ライター。著書に『宇宙創成』など。

 新潮社 2400円

読売新聞
2016年7月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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