『読書脳 ぼくの深読み300冊の記録』
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電子書籍は紙の本を殺すのか? 「知の巨人」が〈読書の未来〉を考える。【自著を語る】
[レビュアー] 立花隆
電子書籍そのものが、まだ必ずしも普及したといえない状況にある日本はともかく、かなり電子書籍が普及したはずのアメリカにおいてすら、必ずしも伸びていないばかりか、数量的にはむしろ伸びが鈍化する動きが出てきており、このままいくと電子書籍の端末は二〇一一年をピークとして、あとは減少の一途をたどるのではないかという予測を発表している調査会社もある。大きな理由の一つは、スマートフォンの驚くべき進化の速さと普及の早さによって、電子メディア全体の今後の趨勢が読みづらくなっているということがある。
少くとも目先数年は、書物の世界(雑誌も含め)はそう簡単には電子書籍に移行しないで、紙の本と電子書籍がそれぞれの特長を生かしつつ共存する時代がつづきそうな気がする。
その一方で、書物のデジタル化も一層進むだろうという気がする。保管の容易さと検索の容易さの点において、デジタル書物の便利さはアナログ書物(紙の本)より圧倒的に有利だから、権利問題がクリアされた古い書物はこれからデジタル・アーカイブにどんどんおさめられていく方向にある。国会図書館などの公共図書館を中心に、過去の書物はどんどんデジタル化されつつある。紙の本の流通と利用が残るのは、ナマもの的に新しいものだけという方向にいずれ行くのではないか。
そういう流れの中で、読書という行為が持つ意味もどんどん変り、人間の情報生活のあり方、学習の態様などもどんどん変っていくのではないか。
そういう状況変化の中で、人々が人生でいちばん本を読む時期であり、学習をする時期である学生生活のあり方が大きく変りつつある。その中にあって、学生の学習生活の中核にあるインフラたる図書館のあり方も変らざるを得ないということで、世界中の大学の図書館のあり方、利用のされ方がどんどん変りつつある。日本における大学図書館の大変貌の先端を知りたいと思って、巻頭対談のお相手を石田先生にお願いした。大学図書館のみならず、人間の知の世界全体がいまほど劇的に変りつつある時代はないということがよくわかった。
(「まえがき」より)