『日本料理とは何か 和食文化の源流と展開』 奥村彪生著

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日本料理とは何か

『日本料理とは何か』

著者
奥村彪生 [著]
出版社
農山漁村文化協会
ジャンル
芸術・生活/家事
ISBN
9784540142550
発売日
2016/03/31
価格
5,400円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『日本料理とは何か 和食文化の源流と展開』 奥村彪生著

[レビュアー] 高野ムツオ(俳人)

奥深い食の百科事典

 日本人は何をどう食べて来て、これから何をどう食べるべきか。この食の百科事典ともいうべき600ページを超す書物が、まず読者に問いかけたいことは、ここであろう。

 そのため、縄文の食文化から始まり、米の常食化、そして、中国伝来の調菜文化をいかに受容してきたかを紹介する。続いて、その文化を日本伝統の刺身文化とどう合体させてきたかについて詳述する。日本料理の始まりは、加工保存もさることながら生食にあった。豊かな自然資源に恵まれていたゆえである。そこに中国の精進料理の技術が加わったのである。かくて、現在に至る日本料理の原型ができた。しかし、それは単なる模倣ではなかった。著者の言葉に従うなら「改創」である。日本の風土に融合し、より洗練された文化として止揚されていったのである。その要因は、油脂に頼らない出汁(だし)が多様に工夫されてきたことにもよるが、風土とその産物を最大限に利用してきた日本人の叡智(えいち)によるところが大きいという。その好例が水だ。確かに日本ほど良質で安全な水に恵まれた国はない。その活用が、煮沸を必要としない豆腐のような食材や活魚料理などを生み出し、独自のすし文化へと発展していったのである。

 料理といえばかつての富裕階級のものというイメージが強い。だが、本書では京都料理だけではなく、江戸庶民の食事事情や雑煮、おせちなど年中行事の料理も広く紹介している。しかも、いずれも料理の実践研究家ならではの豊かな体験と知識、それに多様な文献資料の裏付けがある。世界の料理にも知悉(ちしつ)している。さらに、多くの挿絵に加えて自ら料理を再現した写真もあるから、実に具体的でわかりやすく興味が尽きない。「食べごと」の世界の奥の深さに自然と引き込まれる。読後、本書は料理のみならず日本人の創造のダイナミズムを踏まえた、未来へ向けた日本文化論であることに思い至る。ここにこそ本書の本当の魅力がある。

 ◇おくむら・あやお=1937年、和歌山県生まれ。伝承料理研究家。写真(本書)は、著者が再現した山行提重弁当。

 農山漁村文化協会 5000円

読売新聞
2016年7月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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