『クオンタムユニバース 量子』 ブライアン・コックス、ジェフ・フォーショー著

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『クオンタムユニバース 量子』 ブライアン・コックス、ジェフ・フォーショー著

[レビュアー] 柴田文隆(読売新聞社編集委員)

常識超えた壮麗な世界

 「量子力学はだれも理解していないと言っても、差し支えないと思う」と言ったのは才気煥発(かんぱつ)のリチャード・ファインマン(1965年ノーベル物理学賞受賞)だった。

 確かに手ごわい。量子の世界は日常の常識と乖離(かいり)している。

 粒子は広大な宇宙を満遍なく飛び回りながら複数の場所に同時に存在する。粒子が存在する場所は確率でしか予測できない。電子や光子は粒子のようでもあり波動のようでもある。電子は過去に向かってタイムトラベルする。1個の電子がエネルギー状態を変える時、宇宙全体が一瞬のうちに調節する……。

 こんな話、2人の著者が英マンチェスター大で素粒子を研究する物理学者でなかったら、たわごとにしか聞こえない。だが「いかに直観に反しても、それが粒子の実際のふるまい」なのだ。自然がどんなに奇妙であっても、それが本当の姿なら私たちは素直に受け入れるしかない。宇宙の法則は、人間の常識に寄り添う義理などないのだ。

 物理学者たちは高度な数学と巨大な加速器を駆使し、宇宙の謎をこじ開けるマスターキーを探し求めてきた。1世紀を超える量子論の業績は壮麗な建築物を思わせる。

 相対性理論や量子論が一家団欒(だんらん)の話題となる日が来るとも思えないが、大聖堂の礎石の一つにでも触れてみたいという知的好奇心は持ち続けたいもの。この出版社からは『ビッグクエスチョンズ』という優れた科学シリーズが出ていて、中でも『宇宙』は一押しだ。今回の『量子』も同シリーズと装丁がそろえられ、緩やかな一族を形成している。

 でも正直言って、白色矮星(わいせい)に関するチャンドラセカール限界の計算を扱った最終章などはページをめくるだけで苦痛でした。理系学部生でも難しいかも。大御所ニールス・ボーア先生(22年ノーベル物理学賞)も言っていた。「量子論を前にして呆然(ぼうぜん)としない者は、量子論を理解していない」と。伊藤文英訳。

 ◇Brian Cox=マンチェスター大学フェロー、王立協会研究員。

 ◇Jeff Forshaw=同大学教授(理論物理学)。

 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2200円

読売新聞
2016年7月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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