移民大国アメリカ 西山隆行 著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

移民大国アメリカ

『移民大国アメリカ』

著者
西山 隆行 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784480068996
発売日
2016/06/06
価格
886円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

移民大国アメリカ 西山隆行 著

[レビュアー] 池田智(アメリカ文化研究者)

◆共存目指して新たな難問

 シリアからの難民受け入れの賛否が各国で生活保護や就労問題などを軸に問われ、英国がEUから離脱することになった理由に移民への福祉付与の是非や彼らが低賃金で働くために在来の労働者の雇用が奪われることなどが挙げられている。またアメリカ大統領選では、共和党のトランプ氏がメキシコからの不法移民を犯罪者集団に位置づけ、国民の不安をかき立てている。

 一方、我が国では移民・難民について日常話題にすることはあまりないが、少子高齢化に伴う「人口オーナス」、すなわち生産年齢人口を補充できない状態では今の経済状態を維持できないという理由で、本腰で移民受け入れを考えなければならないと主張する論者もいる。国内外における移民・難民問題を目の前にする今、我が国への提言を含める形で出版された本書の先見性を評価したい。 

 本書は、移民と言えば誰もが思い浮かべるアメリカ合衆国について、その建国期から現在に至るまで、移民に伴う問題がどのようなものであり、どのように処理してきたかについて語りながら、今なお直面する問題やその対応策の模索を紹介している。多くの問題は、新しい移民は白人のプロテスタントが「歴史的に築き上げてきたアメリカ的信条の基盤を掘り崩す」のではないかという不安と結びついている。

 公民権運動が渦巻いた一九六〇年代以降、移民に対し「アメリカ的信条」に「どっぷりつかることを半ば強制する」同化政策よりは、「そのライフスタイルをある程度尊重して長期的な共存を目指す」文化多元論的な考え方が広がった。近年は慰安婦問題やオスマン帝国時代のアルメニア系民族虐殺問題などをめぐり、特定の少数派民族集団が、出身国の関与するロビー活動を活発に展開しているという。

 私たちが移民受け入れを考えるとき何を考慮しなければならないかについて、実践的な視点で検討を行っている点でも、本書は一読に値する。
 (ちくま新書・886円)

 <にしやま・たかゆき> 1975年生まれ。成蹊大教授。著書『アメリカ政治』など。

◆もう1冊 

 高岡望著『アメリカの大問題』(PHP新書)。格差と移民、力の行使、エネルギーという米国が直面する問題の本質を読み解く。

中日新聞 東京新聞
2016年7月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加