『漂流の島 江戸時代の鳥島漂流民たちを追う』 高橋大輔著

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漂流の島

『漂流の島』

著者
高橋大輔 [著]
出版社
草思社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784794222022
発売日
2016/05/19
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『漂流の島 江戸時代の鳥島漂流民たちを追う』 高橋大輔著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

「探検」の意義、再発見

 八丈島の遥(はる)か先、東京の都心から六〇〇キロ近く離れた遠海に、鳥島という小さな無人島がある。この島には江戸時代、漂流した漁船などがよく流れ着くことがあった。船乗りたちは島の洞窟に住み、ときに十年以上にわたって凄絶(せいぜつ)なサバイバル生活を送った。その中にはあのジョン万次郎も含まれ、土佐の漁民・長平を主人公とした吉村昭著『漂流』、井伏鱒二著『ジョン万次郎漂流記』といった文学作品の題材にもなってきた。過去にロビンソン・クルーソーのモデルになった船乗りの居住跡を突き止めた探検家が、そんな鳥島に漂流民の痕跡を探し求めたのが本書である。

 鳥島はアホウドリの生息地であり、島全体が国の天然記念物に指定されている場所。石を一つ動かすにも許可が必要で、おいそれとは調査できない。そこで著者は鳥類学者や火山研究者といった人々と関係を作り、アホウドリの調査隊に加わって上陸を試みる。果たして長平らの洞窟はいまも残されているのか――帰還後、漂流民の調査を拒否する行政の頑(かたく)なな態度に阻まれながら、それでも文献の分析と取材を粘り強く行う様子がスリリングだ。

 引き込まれるのは、自らの「探検」に対していかに社会性を見出(みいだ)していくか、という著者の思考を追体験できることだろう。なぜ漂流譚(たん)は人間を描く文学のテーマとなり続け、人はそれに魅せられるのか。絶望的な状況を闘い、後の漂流者のために伝言を残した人々の精神性とはいかなるものだったのか。調査計画を練るなかでの問いが、鳥島にこだわる自らの思いと次第に重なり、「探検」という行為そのものの持つ意義が再発見されていく過程に圧倒されるのだ。

 調べ始めた者の責任というものがあるとすれば、著者はそれを決して手放さない。だからこそ私は本書に胸を打たれ、人間の歴史とはこのように掘り出されるのを静かに待っているのだ、という気持ちを抱いた。

 ◇たかはし・だいすけ=1966年、秋田県生まれ。探検家、作家。著書に『ロビンソン・クルーソーを探して』など。

 草思社 1800円

読売新聞
2016年7月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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