『滅びゆく世界の言語小百科』 ジニー・ナイシュ著

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滅びゆく世界の言語小百科

『滅びゆく世界の言語小百科』

著者
伊藤 眞 [著]/Naish Ginny [著]/ナイシュ ジニー [著]
出版社
柊風舎
ISBN
9784864980357
価格
16,200円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『滅びゆく世界の言語小百科』 ジニー・ナイシュ著

[レビュアー] 松山巖(評論家・作家)

風土も歴史も危機に

 私たちは日常的に使う言葉が消えてしまう事態など考えもしない。しかし二〇〇九年、ユネスコは世界の約六五〇〇の言語の内、消滅の危機にある二五〇〇の言語リストを発表し、救済と保護を訴えている。

 著者は本書でユネスコの支援により、消滅の危機にある言語の中で特徴的な言語三十を世界各地から選び、解説する。私たちが何より驚くのはアイヌ語についての記述だろう。

 話者数が既に十五人で消滅危険度が極めて高いとしている。アイヌ語を流暢(りゅうちょう)に話す者は八十歳を越え、日常ではほとんど使わない。理由は一八九九年の旧土人保護法で差別を広げ、母語を話す権利を否定されたからだ。現在、アイヌは先住民と認められ、アイヌ語再生の動きはあるが、アイヌ自体が却(かえ)って自分の否定的評価を怖れ、アイヌ文化の保護運動に参加しないと著者は記している。

 この記述に異議があるかもしれないが、本書中の他の消滅危機にある言語は先住民族の言葉だ。アイヌ語同様に消滅の危険度が高いのは、アメリカのカルク語、エチオピアのオンゴタ語があり、イギリスのコーンウォール語は十八世紀に消滅したが、現在は復活した。つまり再生した例もあると著者は強調する。

 更に著者は二十一世紀末には世界の言語の半分は消え、同時に言語を生み出してきた数千年の知識と伝統も消えると予測する。グローバル化が進めば、通信や交易では少数派言語は使われない。政治経済の圧力などで、子孫に少数言語を伝えない人も多い。アフリカでは難民問題で、流れ着いた土地で生きるため自分たちの母語を捨てざるを得ない。各土地と状況で問題は実に複雑なのだ。

 本書はカラー写真で各民族が生きてきた風土と生み出してきた信仰や芸術をビジュアルに紹介する。

 それ故に言葉は単に相手との交流ばかりでなく、風土や歴史のなかに生き続けて来たと改めて感じる。高価な本だが、図書館などで読む機会があれば是非に。伊藤眞監訳。

 ◇Ginny Naish=英国在住の作家、翻訳家。ベネズエラ、仏、伊などを渡り歩き、地理や言語に関する図書を編集。

 柊風舎 1万5000円

読売新聞
2016年7月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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