『自由民権運動 〈デモクラシー〉の夢と挫折』 松沢裕作著

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自由民権運動 : "デモクラシー"の夢と挫折

『自由民権運動 : "デモクラシー"の夢と挫折』

著者
松沢 裕作 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004316091
価格
886円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『自由民権運動 〈デモクラシー〉の夢と挫折』 松沢裕作著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

歴史的位置づけ考察

 近代日本の民主化は、戦争によって促進されてきた。日露戦争は、多大な犠牲を強いられた国民の間に政治参加への欲求をもたらし、「大正デモクラシー」を出現させた。第二次世界大戦後には、「戦後民主主義」が展開した。著者は、同様の効果が幕末の戊辰(ぼしん)戦争にもあったとする。すなわち、明治初期の自由民権運動は「戊辰戦後デモクラシー」として捉えられると主張している。

 戊辰戦争は、江戸時代の身分制の枠を超えた軍事動員によって遂行された。その結果、勝利に貢献した多様な人びとを処遇する必要が生じたが、新政府の指導者たちにも、ポスト身分制社会のあり方は容易に見えなかった。やがて身分的な社会集団が解体していく中で、政権内部に深刻な亀裂が生じ、明治6年、14年の政変を経て、政府を批判する運動が展開し始めた。これが自由民権運動である。運動によって日本社会はどのように変わったのか、また変わろうとしたのか。この問題を、指導者や思想家の動向のみならず、近世以来の社会構造の変化を踏まえて説明している点に、本書の特徴がある。

 かつて自由民権運動研究は、イデオロギー的に偏向したものが少なくなかった。研究者自身の政治的立場を仮託して、特定の民権家を理想化した研究や、運動の側を賛美するあまり、政府に過度に厳しい評価を下す研究も存在した。近年こうした研究は減り、個別の実証研究が着実に積み重ねられているが、その分かえって歴史的位置づけは不明瞭になった感がある。こうした中で著者は、最新の研究動向に目配りし、冷静かつバランスよく考察を加えている。

 最終的に運動は、指導者の迷走や暴力への傾斜によって展望を失い、挫折した。他方で政府は、民権派に対抗しながら、憲法や議会を通じた政治参加の仕組みを作り上げた。安保法制反対デモなどで「政治運動」が活性化の兆しを見せる今日、自由民権運動挫折の歴史から考えさせられることは多い。

 ◇まつざわ・ゆうさく=1976年、東京生まれ。慶応大准教授。著書に『重野安繹と久米邦武』など。

 岩波新書 820円

読売新聞
2016年7月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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