『多摩川1970―74』 江成常夫著

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多摩川 1970-74

『多摩川 1970-74』

著者
江成 常夫 [著]
出版社
平凡社
ジャンル
芸術・生活/写真・工芸
ISBN
9784582278248
発売日
2016/06/27
価格
4,968円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『多摩川1970―74』 江成常夫著

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

 電車から多摩川を見下ろすと、一面の泡が広がっている異様さ。記憶のどこかにそんな風景が焼き付いている。1970年代の多摩川下流である。上流の奥多摩では、素早く泳ぐ川魚の影が見え隠れしていたのに。あの時代を懐かしくも苦く思い出す一冊だ。

 満州(現中国東北部)残留孤児、広島の被爆の記憶など昭和史の影を撮(うつ)しとった江成氏が、毎日新聞時代に撮影した多摩川の相貌である。1970年は環境問題が国政の重要課題となった年であり、後にフリーとなる江成氏も社専属カメラマンでありながら、何を撮るべきか思いあぐね、休日にマイカーで多摩川を巡った。下流に向かえば川は汚濁にまみれているのに、人々は釣りをしたり、ボートに乗ったり。美しい自然と汚染の間で引き裂かれそうでいながら続く平凡な日常。浄化運動の末、今の清流が戻った。そんな時代に思いを馳(は)せたい。

 平凡社 4600円

読売新聞
2016年7月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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