『世界の不思議な音 奇妙な音の謎を科学で解き明かす』 トレヴァー・コックス著

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世界の不思議な音 奇妙な音の謎を科学で解き明かす

『世界の不思議な音 奇妙な音の謎を科学で解き明かす』

著者
トレヴァー・コックス [著]/田沢 恭子 [訳]
出版社
白揚社
ISBN
9784826901895
発売日
2016/06/01
価格
2,808円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『世界の不思議な音 奇妙な音の謎を科学で解き明かす』 トレヴァー・コックス著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

驚きの場所をルポ

 プロローグでびっくりするのは、略歴紹介に「イギリス・マンチェスターにあるソルフォード大学の音響工学教授」とある著者トレヴァー・コックスが、いきなり下水道に潜っているから――ではない。著者が自分の仕事について説明しているくだりで、「私が専門としているのは室内音響学」「研究の大半は、望ましくない音や音響作用を隠したり抑えたりする方法の発見に焦点を当ててきた」。音響工学ってそういう学問なのか。データをとるだけではなく、音楽ホールの設計などの物作りにも携わるし、ソフトウエア開発もする。非常に専門性が強いけれど、私たちの日常生活とダイレクトに繋(つな)がった研究分野なのだ。

 そんな研究者である著者が、音響のインディ・ジョーンズになって、世界中の「音の驚異(ワンダー)」を探しにゆく。そのルポが本書だ。冒頭の下水道のシーンも、夏の夜にロンドン市内のマンホールから地下に降り、強烈な悪臭の漂う暗いトンネルのなかで、奇跡のような珠玉の音響に出会うエピソードなのですよ。

 一方、本書は音についての新鮮な教科書でもある。第3章の「吠(ほ)える魚」では、「残念なことに、テレビの自然ドキュメンタリー番組では野生生物の出す音が耳に入ることはほとんどなく」という嘆きを前振りに、自然界の生物が発する音の話が始まる。体長二、三センチのテッポウエビは、シロナガスクジラの声をかき消すほどの騒音を出すのだという。第5章「曲がる音」のテーマは音の集束作用。回廊の壁を伝って遠くの声が聞こえてしまう現象は、謎解きミステリーの題材にもなっているが、意図的につくられた「ささやきの回廊」は、何と某国某所の議会議事堂にあるのだとか(密談が必要な場所なのにね)。中高生の皆さんにユニークな読書感想文の書けるお勧め本第三弾、でも担任の先生が猫好きな場合は、一六四ページの「猫ピアノ」の話題に触れちゃダメですよ。田沢恭子訳。

 ◇Trevor Cox=音響について一般向けに解説し、本書で米国音響学会のサイエンスライティング賞。

 白揚社 2600円

読売新聞
2016年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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