『昆虫の哲学』 ジャン=マルク・ドルーアン著

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昆虫の哲学

『昆虫の哲学』

著者
ジャン=マルク・ドルーアン [著]/辻由美 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
自然科学/自然科学総記
ISBN
9784622079880
発売日
2016/05/21
価格
3,888円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『昆虫の哲学』 ジャン=マルク・ドルーアン著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

蠱惑的な文化論

 虫1 おしゃれな本だね。フランスの科学史家が僕たちをテーマに書くと、こんなに蠱惑的(こわくてき)で深い哲学になっちゃうんだ。

 虫2 フランスと言えば、ファーブルさんが私たちのことを辛抱づよく観察していたわね。

 虫1 彼の『昆虫記』がプルーストの小説に影響を与えてたなんて、昆虫は文化だなあ。

 虫2 アジアには食虫文化があるけど、ヨーロッパではグルメネタにならなくて、私胸を撫(な)で下ろしたのよ。

 虫1 でも人間は僕らを肴(さかな)に、人生から社会、政治、神学まで色々論じてきたんだよ。

 虫2 アリや蜂のボスが女王か王かの論争なんて、何の意味があるのか想像もできないわ。

 虫1 別の虫を連れてきて役立ててると「奴隷制」とか言って、また論争してたんだからね。

 虫2 昆虫って呼ばれても大きさから習性まで千差万別なんだから、勝手に一緒にしないで欲しいわ。昔はクモやワニも仲間にされてたし。

 虫1 人間は自分勝手だよね。環境問題なんて議論してるけど、いい迷惑だ。僕は害虫って言われているし。昆虫あっての人間だろ。

 虫2 でもダーウィンの進化論を始め、人間知性の発展に私たちが多いに刺激を与えてきたって話は、聞いていてちょっと嬉(うれ)しいわね。

 虫1 こんなに多士済々で魅力的な僕ら昆虫族に比べれば、人間なんてちっぽけな存在だよ。

 虫2 でもそんな不思議な世界を見せてくれて、この本を読んでよかったわね。これって結局、昆虫を語る人間についての本じゃない? 人間族から私たちへの愛を感じたわ!

 虫1 女性は自分の作品を理解しないってプルーストが嘆いたら、コクトーが「あなたは昆虫に対してファーブルを読めと言うおつもりですか」なんて返したそうだけど、それって僕らの方が上だっていう意味かな?

 虫2 そうかしら? フランスものはエスプリが利いてるけど、私たち昆虫はもっと哲学的なのよね。(辻由美訳)

 ◇Jean‐Marc Drouin=1948年生まれ。2008年まで仏国立自然史博物館教授。著書に『哲学者の植物標本』など。

 みすず書房 3600円

読売新聞
2016年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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