『箸はすごい』 エドワード・ワン著

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箸はすごい

『箸はすごい』

著者
エドワード・ワン [著]/仙名 紀 [訳]
出版社
柏書房
ISBN
9784760147120
発売日
2016/06/01
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『箸はすごい』 エドワード・ワン著

[レビュアー] 高野ムツオ(俳人)

民族の歴史そのもの

 著者は上海生まれの歴史学者。序に初めて「箸の歴史を古代から現在までたどった英文の書物」とあるように、もともとは「フォーク・ナイフ派」の欧米文化圏の読者を対象として書かれたもの。だから、箸の起源や役割、箸文化圏の形成に始まり、箸の使い方や習慣、そして、箸の象徴的意義について触れてゆく全体の流れはそれほど目新しいものではない。しかし、中国の『礼記』や『史記』、さらに『三国志』と、多彩な古典資料や文学のエピソードを織り交ぜ展開する箸や料理の歴史は、確かな説得力があり、読みの楽しさを十分に味わわせてくれる。ロラン・バルトなど、初めて箸を見聞きしたナイフ・フォーク圏の文化人の感想を随所に紹介していることも内容を豊かにしている。

 中国はもちろん、日本の箸の独自性に筆を多く割いているが、韓国、ベトナムなど箸文化圏の特質や相違もわかりやすく、箸に対するそれぞれの特色が浮き彫りになってくる。

 箸には七〇〇〇年の歴史があるという。食事用具としては、古代中国では匙(さじ)が主であった。ナイフ・フォークもあった。しかし、長い歴史の中で淘汰(とうた)されて箸が主役となったのだ。背景には食材とその調理方法の変遷がある。食材や調理方法の背後には風土があり、文化の交流があり、宗教がある。そして、人々の苦心の歴史がある。それは箸の材料や使い方にも反映する。朝鮮半島に金属の、日本には木の箸が多いのは生産条件に大きな理由がある。箸の長短は食事のとり方とも深い関わりがあるとのこと。つまり、箸はその民族の歴史そのものでもある。

 著者は各国の箸にまつわるしきたりや慣習、民話などに触れて、箸が生んだ文化の豊かさを強調するが、使い捨て箸がもたらす問題点の指摘も忘れていない。衛生面も含め、これからの箸のあり方にも言及している。箸の未来をしっかり見つめているのだ。毎日使っている箸が尊いものに思えてくる一冊といえよう。仙名紀訳。

 ◇Q.Edward Wang=1958年、中国・上海生まれ。著書に、『中国伝統史学』など。

 柏書房 2200円

読売新聞
2016年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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