『映画を撮りながら考えたこと』 是枝裕和著

レビュー

6
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映画を撮りながら考えたこと

『映画を撮りながら考えたこと』

著者
是枝裕和 [著]
出版社
ミシマ社
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784903908762
発売日
2016/06/08
価格
2,592円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『映画を撮りながら考えたこと』 是枝裕和著

[レビュアー] 朝井リョウ(作家)

わかりやすさに背向け

 「誰も知らない」「そして父になる」「海街diary」……国内外に多くのファンを持つ映画を生み出し続ける著者によるこの本には、全作品の製作裏話は勿論(もちろん)のこと、今の映像業界への批判を伴う意見や自作への正直な反省点等も多く綴(つづ)られている。ただのエッセイやコラム集とは違う読み応えがある一冊だ。

 今でこそ映画監督という印象が強い著者だが、もとはテレビドキュメンタリーを製作するディレクターであった。読んでいると、当時から常に、一作ごとに強い問題意識を抱きつつ自分なりの撮り方を模索していたことが分かる。中でも印象的なのは、初めて手掛けた連続ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」に関する記述だ。

 わかりやすさに背を向ける――著者が採ったこの方針は「一週間の間を空けて放送される」「ながら視聴が多い」等、様々な理由からわかりやすさが重視される連続ドラマ界において異例のものだった。実際、視聴率は振るわなかったものの、出来には満足している、とある。

 私は、映画でも小説でも何でも、創作物とは受け手がただの受け手ではいられなくなるようなものであるべきだと思っている。鑑賞した内容について誰かと話したり、作品を通して見えた世界や自分自身のことを考えたり、受け手が思わず能動的になってしまうような作品に触れたいし、そういうものを創りたいと思っている。ただ、忙しい現代人は娯楽に注げる時間が少なく、比例してそのような作品も減少している気がする。私自身、思わずわかりやすさに逃げたくなるときがあるため、決してそうしない著者の誠実な態度はあまりにも輝いて見えた。

 その他にも、初めて外から与えられたテーマを扱った映画「奇跡」についての話、遺(のこ)された人を描く作品が多い理由等、興味深い記述は多い。読後、このように書評を書くという能動的な行動をとった私は、今後何度もこの本を開き、そのたび視界が晴れる思いを抱くのだろう。

 ◇これえだ・ひろかず=1962年東京生まれ。2013年、「そして父になる」でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。

 ミシマ社 2400円

読売新聞
2016年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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