『豊臣水軍興亡史』
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豊臣水軍興亡史 山内譲 著
[レビュアー] 渡邊大門(歴史学者)
◆天下統一支える奮闘
水軍といえば、戦国史の脇役のようであるが、その存在は重要だった。そもそも東国の水軍は、戦国大名に召し抱えられた軍事力としての性格が濃く、西国の水軍は一領主としての自立性が高い。後者は通行料を徴収するなど領主的な性格が強いが、ときに毛利氏などの戦国大名の要請により出陣した。
戦国大名は自前で水軍を養成するのが困難だったため、彼ら水軍衆を配下に収めることが不可欠であった。村上水軍や九鬼水軍は海上での戦闘で制海権を掌握すべく奮闘し、その期待に大いに応え、存在感を示した。毛利氏、北条氏、武田氏らの発展の背後には、水軍衆の存在があったのだ。天正十(一五八二)年六月に織田信長が本能寺の変で横死すると、代わりに台頭したのが豊臣秀吉である。秀吉は巧みに水軍を利用した。
秀吉は天下統一を進めるべく、各地の水軍を編成・活用し、九州征伐、小田原合戦では水軍の力がいかんなく発揮された。そして、文禄・慶長の役で、秀吉配下の水軍は朝鮮水軍と死闘を繰り広げる。しかし、関ケ原合戦後、水軍衆は大名やその家臣などになった。平和な時代となり、水軍は解体されたのである。
本書は、水軍の勃興から解体までを通史的に論じ、その興亡を鮮やかに描き出す。戦国史に輝きを放った水軍の重要性を再認識させてくれる一冊である。
(吉川弘文館・2484円)
<やまうち・ゆずる> 松山大教授。著書『中世瀬戸内海の旅人たち』など。
◆もう1冊
加藤廣著『水軍遙かなり』(上)(下)(文春文庫)。戦国末期に水軍を率いた九鬼嘉隆・守隆父子の活躍を描く歴史長篇。