『コンビニ人間』 村田沙耶香著

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コンビニ人間

『コンビニ人間』

著者
村田 沙耶香 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163906188
発売日
2016/07/27
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『コンビニ人間』 村田沙耶香著

[レビュアー] 長島有里枝(写真家)

異質な自分をめぐって

 社会生活のあらゆる場で、自分が「異質」だと思い知らされているのに、自分のなにが「悪い」のかはいつまでたってもわからない。芥川賞に決まったこの作品の主人公を通して、見えてくるのは自分にも馴染(なじ)み深い、そんな世界だ。

 古倉恵子はエキセントリックな子供だった。幼少期から周りと違っていた彼女は、小学生の時、自分の言動に胸を痛める両親のために自発的な行動を控えて生きようと決める。それによって、妹のように「普通」ではないことを、表面的には隠すことができたが、それでも家族は恵子が「治る」ことを願い続け、本人も「治らなくては」と思い続ける。大学一年になり、コンビニエンスストアでアルバイトを始めた恵子は、何もかもがマニュアル化されたコンビニ店員でいるときだけは自分が「世界の正常な部品」でいられると感じる。仕事の初日に彼女は、まさに『コンビニ人間』として「今、自分が生まれた」と思う。

 例えば幼稚園時代、公園で死んでいる青い小鳥を見つけ、泣いている友達を尻目に恵子は、鳥を持ち帰って食べようと母に頼む。死んだ小鳥に感情移入できない恵子が公園にいる大人をぎょっとさせるが、鳥のお墓に供えるために生きている花を引きちぎって「殺す」友達の暴力性のほうに、恵子はむしろ驚いている。このくだりを読んで、恵子のものの見かたに共感したわたしは、著者に自分もまた「普通」ではないことを見透かされたような気がした。

 「治り」たくて、人と違わないように見せる作業に果てしない時間と労力を注ぎ込むのだが、自分はいつも途中で疲れて投げ出してきたのに対し、恵子はそうじゃないのだな、と途中までは思った。終盤、コンビニは恵子にとって、「周囲と同じ」を担保するための装置ではもはやないのだと気づかされる。そのとき読み手は、「普通」との長い戦いの向こうにある世界を予感し、希望を感じるはずだ。

 ◇むらた・さやか=1979年生まれ。『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞。ほかの作品に『殺人出産』。

 文芸春秋 1300円

読売新聞
2016年8月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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