『ハリネズミの願い』 トーン・テレヘン著

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ハリネズミの願い

『ハリネズミの願い』

著者
トーン・テレヘン [著]/長山 さき [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784105069919
発売日
2016/06/30
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ハリネズミの願い』 トーン・テレヘン著

[レビュアー] 青山七恵(作家)

ままならない訪問客

 森の片隅にひっそり暮らす、臆病で孤独なハリネズミ。ある日ふとほかのどうぶつたちを家に招待してみようと思いついて、さっそく手紙をしたためる。「ぼくの家にあそびに来るよう、キミたちみんなを招待します」。それからすこし考えて、「でも、だれも来なくてもだいじょうぶです」。結局ハリネズミは手紙を引き出しにしまい、やってくるかもしれないどうぶつたちのことをひとりえんえんと考えはじめる。

 踊りたがりのサイ、ごちそう目当てのクマ、プレゼントを押しつけるカバ、乱暴者のロブスター、疑り深いカラス……想像するどのどうぶつの訪問も、ハリネズミを怯(おび)えさせ、後悔させるものばかり。ままならないお客との交流はあきらめ孤独な生活を貫くか、それともそのままならなさを耐え忍んで、いつか自分と気持ちがぴったり重なる、とっておきのだれかを見つけるか? 易しいことばでつづられるハリネズミの心の声に、読むひとはきっと自分の心の声を聴くだろう。そして彼を困らせるやっかいな訪問客たちのふるまいにも、ほんのちょっぴり、ふだんの自分のふるまいを見るはずだ。

 中でも最近、親しいだれかとぎすぎすした関係に陥っているひとならば、ハリネズミ宅を目指すおとなしいカメと怒りっぽいカタツムリのやりとりに、身につまされると思う。たとえばカメの、こんなやるせない心情はどうだろう。「自分がカメであることは知っていたが、カタツムリが見るとほかのだれかであることがよくあった」。だれかと本当に親しく深く付きあおうと思えば、きっと自分が自分だと思っていただれかとは、しばしお別れをすることになる。ハリネズミが恐れているのも、たぶんそのことだ。自分が自分でなくなるのだから、それはもちろん、恐くて不安だ。うーん、でも……。でも、だいじょうぶ。この「でも……」の続きは、ハリネズミとその最後の訪問客が、怖がりなあなたにそっと教えてくれます。長山さき訳。

◇Toon Tellegen=1941年、オランダ生まれ。医師。著書に『一日もかかさずに』など。

 新潮社 1300円

読売新聞
2016年8月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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