『介護するからだ』 細馬宏通著

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介護するからだ

『介護するからだ』

著者
細馬 宏通 [著]
出版社
医学書院
ジャンル
自然科学/医学・歯学・薬学
ISBN
9784260028028
発売日
2016/06/20
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『介護するからだ』 細馬宏通著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

身体の「かしこさ」活用

 著者の研究テーマである人間行動学とは、ヒトの行動の法則を科学的に解き明かす学問だという。

 例えば目の前から誰かが歩いてくるとき、私たちは左右のどちらに避けるかを意識せずとも、さっとすれ違っている。あるいは手から手へと何かが渡される際も、渡す側と受け取る側は、「つかむ」と「離す」という行為を絶妙なタイミングで自然と行っている。

 でも、考えてみれば繊細な動きの連続であるやり取りを、なぜ私たちは自然とかわせるのだろう。本書によると、研究では売店のレジにカメラを取り付けてお釣りの受け渡しの様子を撮影したり、目隠しをした一方をもう一方が声だけで誘導したりと、様々な状況をひたすら観察することもあるようだ。

 その中で著者がフィールドワークとしてきたのが、認知症高齢者のグループホームの片隅から、人々の動きを徹底的に観察すること。本書では食事やベッド、入浴の介助、レクリエーションの時間におけるありふれた出来事が、研究者にとって驚愕(きょうがく)の光景になる瞬間をユーモラスに切り取っている。ほのぼのとしたホームの現場が人間行動学的な世界へとその都度反転し、人間の無意識の動きがスローモーションのように可視化される様子が実に興味深い。

 著者は一見すると何でもない出来事を、ときに撮影したビデオを一コマずつ進めて分析する。そうして〈見ている者の意識をすり抜けるほど緻密な相互作用〉を見出(みいだ)すことから浮かび上がるのは、ベテランのケアスタッフの動きの秘密。彼らがいかに身体そのものの〈かしこさ〉を活用しているかが見えてくるのだ。

 ちなみにこの「シリーズ ケアをひらく」にはユニークな著作が多い。同じく高齢者施設での聞き取りをフィールドワークにした六車由実著『驚きの介護民俗学』などとあわせ読むと、高齢者ケアの現場の奥深さに、思わぬ角度から気付かされるのではないだろうか。

 ◇ほそま・ひろみち=1960年、兵庫県生まれ。滋賀県立大教授。著書に『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』など。

 医学書院 2000円

読売新聞
2016年8月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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