『柏木義円と親鸞』 市川浩史著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

柏木義円と親鸞 ― 近代のキリスト教をめぐる相克

『柏木義円と親鸞 ― 近代のキリスト教をめぐる相克』

著者
市川 浩史 [著]
出版社
ぺりかん社
ISBN
9784831514417
発売日
2016/06/24
価格
2,808円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『柏木義円と親鸞』 市川浩史著

[レビュアー] 月本昭男(旧約聖書学者・上智大特任教授)

 明治期から昭和10年まで、ほぼ40年、群馬県の安中教会で牧師であった柏木義円のことがひろく知られるのは戦後しばらくしてからである。彼は不便な農村を徒歩で伝道するかたわら、『上毛教界月報』を発行して平和と正義と人権を訴え続けていたのである。

 廃娼(はいしょう)の主張、足尾鉱毒事件の批判、日露戦争時の非戦論、朝鮮併合批判などに、そうした事例の一端が窺(うかが)われる。彼は自身の属する組合教会が朝鮮併合政策に迎合して計画した朝鮮伝道に強く異を唱え、関東大震災時の自警団による朝鮮人虐殺の背後に「軍人精神」を洞察した。

 このような稀有(けう)な田舎牧師義円に決定的な影響を及ぼしたのは新島襄であった。その一方で、浄土真宗の住職の長男に生まれ、10代で漢学を修めた彼のうちには仏教や儒教が深く刻みこまれていた。本書はそこに着目し、キリスト教の教えを語る義円に親鸞や陽明学の思想的痕跡を探りあててゆく。義円自身も晩年まで仏教や儒教の探求を怠らなかった。日本の思想伝統にキリスト教の教えを接ぎ木した明治のキリスト者たちの典型的事例の一つがここにある。

 ぺりかん社 2600円

読売新聞
2016年8月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加