『「時代映画」の誕生』 岩本憲児著

レビュー

4
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「時代映画」の誕生

『「時代映画」の誕生』

著者
岩本 憲児 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784642016544
発売日
2016/06/30
価格
4,860円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『「時代映画」の誕生』 岩本憲児著

[レビュアー] 安藤宏(国文学者・東京大教授)

 「忠臣蔵」や「国定忠治」などで親しまれている時代劇は、いつ、どのようにして映画の定番へと育っていったのだろうか。

 大正から昭和の初頭にかけ、歌舞伎や講談、大衆文学などがミックスして、新たに「時代映画」というジャンルが誕生する。尾上松之助の時代からマキノ映画の時代へ、さらには沢田正二郎の新国劇が切り開いた「剣劇」を取り入れていく方向へ。中里介山の「大菩薩峠」や岡本綺堂の捕物帖(とりものちょう)などが次々に映画化されていくのもこの頃だ。興味深いのはそれが一方通行の影響ではなく、逆に映画が文芸を変えていく“相互浸透”の様相である。講談が大衆小説に移行する際にも、映画のイメージが多大な影響を及ぼしたのであるという。

 「時代映画」には、庶民のうちによどむ、暗い情念が流れている。権力に虐げられる怨念が、同時代のプロレタリア文学との意外な接点を生み出していく様相も興味深い。この時期のフィルムがほとんど現存していないのが残念だが、雑誌の映画評や写真などから混沌(こんとん)とした状況を丹念にたどり返した労作である。

 吉川弘文館 4500円

読売新聞
2016年8月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加