大統領選控えたアメリカを学ぶ

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  • アメリカの大問題―百年に一度の転換点に立つ大国
  • 熱狂する「神の国」アメリカ 大統領とキリスト教
  • ユダヤとアメリカ : 揺れ動くイスラエル・ロビー

書籍情報:版元ドットコム

大統領選控えたアメリカを学ぶ

[レビュアー] 村田晃嗣(国際政治学者・同志社大教授)

 アメリカの大統領選挙で、いよいよ候補者が確定した。やや不謹慎ながら、今年はオリンピックよりも、この選挙のほうがおもしろいかもしれない。だが、先般の東京都知事選挙と同様に、政策論争は見えてこない。むしろ、人種や宗教などの相違を際立たせて、怒りや憎しみを原動力にするアイデンティティ・ポリティックスの色彩が強い。

 アメリカはどう変わろうとしているのか、そして、それは何故(なぜ)か。

 高岡望『アメリカの大問題』は、ヒューストン総領事を務めた外交官による分析である。著者は三つの大問題を指摘している。一つ目は格差の拡大であり、年間100万人もの移民の流入がその重要な原因の一部をなしている。しかし、それがアメリカ社会の多様性や開放性の証しであり、活力の源泉でもある。今日ではヒスパニック系移民の増大が注目されるが、日系移民の苦難の歴史をふり返れば、われわれ日本にとっても無縁の話ではない。

 二つ目は力の行使の問題であり、国内的には銃による犯罪や事件とどう向き合い、銃規制をどう考えるかである。何しろ、アメリカでは交通事故で亡くなる人よりも銃のために命を落とす人の数のほうが多い。そして、対外的には、同盟関係や中東政策、中国政策など、地政学的な対応である。さらに第三は、シェール革命によるエネルギー政策の転換である。いずれも、著者の赴任地だったテキサスでの事例が巧みに織り込まれている。

 松本佐保『熱狂する「神の国」アメリカ』は、キリスト教に特化して、宗教と政治の関係を論じている。まず、著者が得意とするカトリックのアメリカでの歩みが、ケネディ一家などとの関連から解き明かされる。もちろん、それはアイルランド系やヒスパニック系などの移民史とも結びついている。

 次いで、プロテスタントの中で福音派、特に南部バプティストが勢いを増し、テレビ伝道師たちが台頭する様子が紹介される。さらに、キリスト教の中でもイスラエルを熱心に支援するシオニストの世界観をはじめ、キリスト教がカトリック、プロテスタントを問わず、右派と左派とに分裂する傾向が示されている。

 立山良司『ユダヤとアメリカ』では、アメリカの強力なイスラエル・ロビーの中でも、イスラエル絶対支持はアメリカの国益に反するとするカウンター・ロビーが力を得ている様子が紹介されている。そして、右傾化を強めるイスラエルとの関係、在米ユダヤ人の世代間の対立などに悩むイスラエル・ロビーの姿が丹念に分析されている。

 このように、今日のアメリカを理解するには、人種や宗教、さらにはLGBT(性的マイノリティの略称)のようなジェンダーの多様性や相互関係を強く意識しなければならない。東部や西海岸以外の、アメリカの地域社会への認識も必要である。アメリカは実に複雑な国である。4年に一度の大統領選挙を契機に、改めてアメリカについて学び、日米の市民社会が価値観を共有する手がかりにしなければならない。そして、そのためには、われわれ自身が多様性に対して敏感でなければならない。もちろん、中国の台頭などに対処することは重要だが、力学の観点だけでは同盟はさほど長続きしないことを、肝に銘じるべきであろう。

 ◇たかおか・のぞむ=1959年生まれ。外交官。イラン公使などを経てヒューストン総領事を務めた。

 ◇まつもと・さほ=1965年生まれ。名古屋市立大教授。著書に『バチカン近現代史』など。

 ◇たてやま・りょうじ=1947年生まれ。防衛大学校名誉教授。著書に『エルサレム』など。

読売新聞
2016年8月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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