横須賀、基地の街を歩きつづけて 新倉裕史 著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

横須賀、基地の街を歩きつづけて 新倉裕史 著

[レビュアー] 吉田司(ノンフィクション作家)

◆<動く原子炉>への抵抗

 神奈川県・横須賀は基地の街。特に「米軍の街」だ。アメリカの世界最大の「海外母港」で、米海軍第七艦隊の原子力空母やイージス艦が前進配備されている。イラク戦争の時、この街が選挙地盤の小泉純一郎元首相が、世界に先駆けてブッシュ支持を表明したのも当然だったかもしれない。おかげで横須賀から艦船が参戦し、空母キティーホークの艦載機は五千三百七十五回も出撃を繰り返したという。現在は緊張高まる南シナ海で、原子力空母ロナルド・レーガン等が中国を相手に「航行の自由作戦」を展開中だ。

 でもそれに対して毎月欠かさず、二十~五十人の人たちが四十年間にわたり、「基地のない町を」と呼びかける草の根の平和デモを続けている。手押しのリヤカーにつけたスピーカーから反戦歌を流す「非核市民宣言運動・ヨコスカ」という市民運動。軍艦出撃には平和船団の小舟で抗議したり、原子力空母配備反対の住民投票請求のまちぐるみ運動を展開したり。この本は、その空母VS小さなリヤカーの反戦抵抗史をまとめたものだ。

 その中で今一番大事な話はこれ-原子力空母は<動く原子炉>という訴えだ。メルトダウンの事故を起こしたら、被曝(ひばく)被害は三浦半島から神奈川県全域、房総半島、東京都を直撃するだろう。直下型地震だけが首都圏のリスクではないことを本書は教えている。

 (七つ森書館・1944円)

 <にいくら・ひろし> 1948年生まれ。横須賀市民として平和運動を続けている。

◆もう1冊

 平良好利著『戦後沖縄と米軍基地』(法政大学出版局)。膨大な一次資料に基づき、沖縄の米軍基地問題の展開を追う。

中日新聞 東京新聞
2016年8月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク