前代未聞の料理店がオープン! 作中のエスカルゴ料理を再現してみました〈試食&座談会〉津原泰水『エスカルゴ兄弟』

対談・鼎談

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エスカルゴ兄弟

『エスカルゴ兄弟』

著者
津原 泰水 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041032527
発売日
2016/08/03
価格
1,782円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

前代未聞の料理店がオープン! 作中のエスカルゴ料理を再現してみました〈津原泰水×名物書店員 エスカルゴ・ポマティア試食&座談会〉津原泰水『エスカルゴ兄弟』

エスカルゴの王様とも呼ばれるブルゴーニュ産の「ポマティア」。この食材をテーマにしたお料理青春小説『エスカルゴ兄弟』発売を記念して、著者・津原泰水さんが名物書店員さんを招き試食会を企画しました。果たしてそのお味は? エスカルゴのイメージがぐるぐると変わるスペシャル座談会です。

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■エスカルゴ・ポマティアとの出会い

――『エスカルゴ兄弟』は出版社をクビになった主人公が、うずまきマニアの写真家と共にエスカルゴ料理の店「スパイラル」を立ち上げる、という物語です。スパイラルは吉祥寺の小さな店で、元編集者の主人公がここでシェフとして腕をふるうことになるのですが……。まず前菜代わりに「なぜエスカルゴをテーマに書いたのか」を教えてください。

津原 昔から螺旋にはなぜか惹かれるものがありました。日本橋三越の壁にアンモナイトの巨大な化石があるのですが、大好きですね。具体的には十五年ほど前からエスカルゴについての長い小説を書こうという構想があって、ことあるごとに調べものをしていました。そんなとき、エスカルゴ牧場という世界で初めて完全養殖、つまり世代交代していく養殖に成功した施設があると知って、早速取材に向かいました。

――そこで最高級ランクのエスカルゴ、ポマティアを初めて召し上がったのですか?

津原 そういうことになりますね。

――書店員のみなさんはどうですか? エスカルゴにまつわる体験、あるいはイメージについて聞かせてください。

高頭 輸入食材店で水煮の缶詰を買ってみんなで食べたことがあります。「美味しいな」と思っていましたが、『エスカルゴ兄弟』を読んでからは「あれは果たしてポマティアなのか」と自分が食べてきたものを疑うようになりました。

木幡 私は、今日が初体験です。同僚に「貝みたいなもんだよ」と言われて来ました。

新井 某イタリアンファミレスで三百九十九円のメニューを時々、食べます。今日は本物の、主人公の言葉を引用すると「誇り高き陸の貝」の味はどんなの?と楽しみです。

宇田川 まさに“デンデンムシ”の印象だったので自分とは縁遠いものだと思っていました。でも第二章で「料理とは出会いだ」とあるように、この小説は出会いの物語だと思うんです。だから今日、ポマティアとどんな出会いができるか、とても楽しみです。

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――津原さんとポマティアの出会いは、振り返ってみてどうでしたか?

津原 エスカルゴ牧場では、定番料理以外に和風のものもいただきました。いちばん衝撃を受けたのは酢の物でしたね。比べるためにアワビもいただいたのですが、遜色はなかったです。

――それは作中にも出てくるエピソードですね。

津原 そうです。あのあたりは実体験がかなり活きています。今日もまずは和食、酢の物から始めましょう。みなさん、戦々恐々としながら楽しんでください。

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■唯一無二のメニューポマティアの酢の物

――では、コースを始めましょう。まずは酢の物から。

宇田川 これ、見た目からは、エスカルゴってわからないですね。

高頭 うん。ただの貝の酢の物。

新井 あ、でもよく見ると触角があります。やっぱりカタツムリなんですね。

――味はどうでしょう。

木幡 独特の香りはありますが……。

新井 美味しい。下手な貝よりも。

宇田川 何の違和感もないですね。むしろ貝がダメな方でも大丈夫かも。

高頭 日本人は貝を食べ慣れている民族ですし、そういった部分で親しみがあるのかもしれないですね。エスカルゴは茹でるんですか?

津原 実は下処理にけっこうな時間がかかっています。生きたままのポマティアを水から茹で、殻から出します。ワタなどを切除したのち、粗塩でもみ洗いをしてぬめりを取ってあります。

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■定番のブルギニョンと禁断(!?)のエスカルゴ軍艦

――続いては定番のブルギニョンです。

津原 専用のトングで取って、楊枝で身を引っぱり出してください。

高頭 やっぱりこれが一般のエスカルゴのイメージですよね。

宇田川 でも僕の中ではそれが……変わりつつあります。

木幡 出てきた~。なんだか楽しいですね。

津原 お行儀を考えずに、バゲットの上に乗せてかぶりついちゃってください。

――お味はいかがですか?

新井 美味しい。バゲットと一緒にいくらでも食べられます。

宇田川 つるんとした食感も面白いですね。

高頭 「スパイラル」に飲みに行きたくなります。

木幡 あのお店、いかにも吉祥寺にありそうで、ピッタリとイメージできます。ハモニカ横丁などの描写もリアルで、毎日吉祥寺に通っている身としては嬉しいです。

――続いてはエスカルゴ軍艦です。

津原 酢の物もですが、これもフランス人が見たら「食えるのか?」と怒り出すかもしれません。

新井 でも、これも違和感はないですね。

津原 シャリにバターライスを使っています。

木幡 相性がいいですね。新しい寿司ネタみたい。

高頭 回転寿司のチェーンとコラボしてもいいくらい。

津原 さっきの酢の物もそうですが、海苔との相性もいいですし、和食として完成度が高いと思います。

――今作では、例えば居酒屋で卵焼きを食べて「卵。卵というご馳走を、長らく忘れていた自分に気付く」といった一文があるように、食べ物についての描写が印象的です。どのような点を意識したのでしょうか。

津原 これは表現として当然なのですが、美味しいものを食べて「美味しい」と書いてしまってはダメですよね。言ってみれば、食べ物の表現とは味わうという行為をデフォルメするということです。そんな食材があるかはわかりませんが、走りたくなるようなものを食べたら「走りたくなった」と書くより、実際に人物を走らせてしまったほうがいい。

――今回はエスカルゴという特殊な食材を描かれていましたが、難しかった点はありますか?

津原 読んだ方がイメージしやすいように「普段、食べているものと比べてどうなの?」という尺度が欲しかった。油揚げにチーズを挟んで焼いた「チーズキツネ」や卵焼きはその対比として書いたんです。

新井 エスカルゴ以外の料理も美味しそうで、それぞれ印象的でした。

高頭 自分でもやってみようと思えるようなメニューが多くて楽しかったです。チーズキツネは実際にやろうと思っています。

宇田川 ひょっとして「普段食べているものとの対比」の延長線上に、作品に登場する、うどんとエスカルゴを合わせた“ウドネスカルゴ”もあるんですか?

木幡 主人公とヒロインのご当地うどんのエピソード、面白かったです。

――主人公は香川県出身で実家が讃岐うどん屋。なのに、恋に落ちる相手があろうことか伊勢うどん屋の娘なんですよね。

新井 うどん界のロミオとジュリエットですね。稲庭うどん屋の御曹司まで絡んでくる彼らの恋愛模様にも、どきどきさせられました。

■エスカルゴ×伊勢うどん=ウドネスカルゴ

――ちょうどシメに、その“ウドネスカルゴ”がやってきました。

木幡 食べやすくて美味しいです。

高頭 シメにちょうどいい!

宇田川 伊勢うどんにいい意味で歯ごたえがないので、エスカルゴとの相性がいいんですね。

新井 エスカルゴがもっとゴロゴロ入っていても嬉しいかも。

――これで全メニューが終了しました。世界でもここだけの「スパイラルのエスカルゴコース」はいかがでしたか?

木幡 実はこの企画を聞いたとき、「カタツムリでしょ? どうしよう」と思っていたんです。ぜんぶ美味しかった。満足です。

宇田川 実際に食べてみて、『エスカルゴ兄弟』を読み返してみたくなりました。

高頭 これらのメニューは津原さんが考案したのですか?

津原 料理の上手な大学時代からの友人がいて、彼と一緒にあらゆる料理を試した結果ですね。軍艦なんかは彼のアイデアで、バターライスという発想も僕のものではありません。

木幡 どれも美味しかったです。

宇田川 ごちそうさまでした。

津原 ゲテモノ扱いされなくて良かった。ポマティアの殻をお土産に用意したので、迷惑かもしれませんがお持ちください。

新井 店で飾っていいですか? これを使ってPOPを作ります。

津原 是非お願いします。今日はありがとうございました。

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津原泰水(つはら・やすみ)
1964年広島市生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。89年に少女小説作家としてデビュー。97年、現名義で『妖都』を発表。以降、幅広いジャンルで執筆を続ける。2011年に発表した短篇集『11』収録の「五色の舟」がSFマガジン「オールタイム・ベストSF」国内短篇部門で1位に。また、同作は近藤ようこ氏によって漫画化され、第18回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門大賞を受賞した。その他の著書に「幽明志怪」三部作、『ブラバン』『ヒッキーヒッキーシェイク』など多数。

取材・文|竹田聡一郎 撮影|内海裕之

KADOKAWA 本の旅人
2016年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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