【話題の本】彼女たちが特別である理由 『1998年の宇多田ヒカル』宇野維正著

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1998年の宇多田ヒカル

『1998年の宇多田ヒカル』

著者
宇野, 維正, 1970-
出版社
新潮社
ISBN
9784106106507
価格
814円(税込)

書籍情報:openBD

【話題の本】彼女たちが特別である理由 『1998年の宇多田ヒカル』宇野維正著

[レビュアー] 海老沢類(産経新聞社)

 サッカー日本代表がW杯に初出場し、Windows98の発売とともに国内でインターネットが急速に普及した1998(平成10)年、宇多田ヒカル、椎名林檎、aiko、浜崎あゆみ、という才能あふれる女性ソロ歌手4人がそろってデビューした。この年、日本の音楽産業は史上最高のCD売り上げを記録した。

 “奇跡の年”に何が起こり、4人はなぜ特別であり続けられるのか。音楽ジャーナリストが豊富な取材経験をもとに論じる。1月刊で、4刷2万5000部。「当時10~20代だった世代のノスタルジーを喚起している」と担当編集者。

 日本の音楽業界では長らくレコード会社や大手プロダクションが制作の主導権を握ってきた。ところがデビュー曲「Automatic」がミリオンヒットとなった10代の宇多田ヒカルは、曲作りの全権を自ら掌握。既存のメディアを介さずにネット上でファンに直接メッセージを発信する手法でも支持を広げていった。

 時代の転換点に世に出た4人の歩みから伝わってくるのは、自己プロデュース力の重要性、そして刺激し合える「同期」を持つ幸福だ。ほかの芸術はもちろん、ビジネスの現場にも当てはまる真理かもしれない。(新潮新書・740円+税)(海老沢類)

産経新聞
2016年8月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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