【自著を語る】金子兜太『金子兜太 いとうせいこうが選んだ「平和の俳句」』

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金子兜太 いとうせいこうが選んだ「平和の俳句」

『金子兜太 いとうせいこうが選んだ「平和の俳句」』

著者
金子 兜太 [著]/いとう せいこう [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学詩歌
ISBN
9784093884884
発売日
2016/06/29
価格
1,080円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【自著を語る】金子兜太『金子兜太 いとうせいこうが選んだ「平和の俳句」』

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■人間っていいもんじゃないかとしみじみ思えます

「平和の俳句」とは、読者から平和をテーマにした俳句を募り、その中から私と作家のいとうせいこう君のふたりが選んだ作品を、新聞(東京新聞・中日新聞・北陸中日新聞・日刊県民福井)の朝刊一面に一句掲載する、という連載企画です。戦後七十年の節目に当たる二〇一五年一月一日から掲載が始まり、当初は一年間だけの期間限定企画だったのですが、読者から「もっとつづけてほしい」という声をたくさんいただき、現在も連載はつづいております。本書は、二〇一五年の紙面に掲載された作品を一冊の本にまとめたものでございます。

 だから私は、作者ではなく、選者、の立場なんですね。

 この企画が始まったきっかけは、東京新聞からの依頼で、二〇一四年八月十五日の終戦日企画で行ったいとうせいこう君との対談でした。ちょうど憲法第九条の理念が大きく揺らいでいたころで、六月には埼玉県さいたま市の公民館が、九条を詠んだ市民の俳句〈梅雨空に『九条守れ』の女性デモ〉の月報への掲載を拒否するという動きもあった。いとう君は「下から自分たちで監視社会みたいにして、互いを縛っていく」と・下からの抑圧・を憂いており、私と同じ危機感を抱いていた。その場で、戦後俳句を僕たちが選者となって募集できないかという話になり、すぐに東京新聞の社会部長さんが「やりましょう」とのってくれまして、決まったのです。

 さっそく同年十一月十四日付けの新聞で投稿募集の記事が載り、十二月中旬に初めての選考会。初回の応募数は三千六百通と聞いております。その後もだいたい四、五千通の数の応募が毎月届いているらしいですね。事務局で半分程度まで絞ってもらい、残りのすべての作品に、ふたりで目を通しています。新聞社の会議室にこもって半日がかりで読んで、選んで、クタクタに疲れて帰宅して、そこから選評を書き始めるのですが、この作業がじつに楽しく気持ちいいんだ(笑)。まるで、よい楽団が奏でるよい演奏を聴いているような──作品を読むごとに作者の人柄や生活が見えてきて、平和を訴える気持ちが波のように押し寄せてくるんです。不思議なことです。

 作者は俳句のプロではなく、ふつうのみなさん、いまこれを読んでくださっている方と同じ。だからこそ、プロからは生まれないような、ハッとさせられる新鮮な俳句がたくさん集まりました。なかでも、とりわけ印象深い作品を挙げてみましょうか。

  平和とは一杯の飯初日の出(18歳)

 この句が掲載第一号です。初日の出の中で・平和とは一杯の飯・と思うというのがいい。

  へいわとはちきゆうもひともしなぬこと(6歳)

 地球、という大きな捉え方をした点がいいと思いました。地球と人を、同時にいうところがいい。

  生きるには戦車はいらぬ耕運機(78歳)

 ズバリ言い切る小気味よさ。じつにうまい句です。

  千枚の青田に千の平和あり(74歳)

 句の掲載後、作者の方にお会いしたんですよ。金沢に講演で行ったとき、会場に来てくださってね、掲載された記事を見せてうれしそうに挨拶してくださった。みずみずしい句と同じく、さわやかな印象の男性だったな。懐かしい思い出です。

  若者に武器より強い夢持たせよ(18歳)

 18歳の女性の句です。武器に代わるものとして、強い夢というのがいい。いとう君もこの句には選評を寄せていますね。

 一冊にまとまり、あらためてまとめて読みかえしますと、形状や勢いが異なる波を幾度も気持ちよく浴びている感銘を覚えます。これこそ、句集のチカラ。平和の波が、大波小波が押し寄せてきて、人間っていいもんじゃないかとしみじみ思えます。(談)

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金子兜太(かねこ・とうた)
俳人。1919年埼玉県生まれ。高校在学中に全国学生俳誌『成層圏』に参加し加藤楸邨に師事する。東京帝国大学卒業。前衛俳句、社会性俳句の旗手として戦後俳句を牽引。1962年、俳句雑誌『海程(かいてい)』創刊。現在、現代俳句協会名誉会長。代表作に、〈水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る〉など。

小学館 本の窓
2016年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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