【私の編集した本】『戸井十月 全仕事 「シャコタン・ブギ」から「五大陸走破」まで世界を駆け抜けた作家の軌跡』

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戸井十月 全仕事

『戸井十月 全仕事』

著者
『戸井十月 全仕事』編集委員会 [編集]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784093798600
発売日
2016/06/02
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【私の編集した本】『戸井十月 全仕事 「シャコタン・ブギ」から「五大陸走破」まで世界を駆け抜けた作家の軌跡』

「背幅四センチ」の人生

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 作家の戸井十月さんから、それまでやってきたインタビュー取材を集大成する書籍の企画を提案されたのは、二〇一二年秋のことだった。

「小野田寛郎さんから植木等さん、水木しげるさん、それに堀文子さんまで、これまで俺がロング・インタビューした人たちの話を全部集めて一冊にしたい。まだ活字にはなってないけど面白い話が山ほどあるからさ」

 戸井さんは、その前年に肺がん(ステージⅢ)を宣告されたが、抗がん剤と放射線の同時併用治療の結果、わずか半年で奇跡的に「寛解」の診断を受けていた。だが、翌年再発。久々に会ってみると、抗がん剤の副作用のために、豊かだった髪の毛が抜け落ち、体つきも小さくなったようだった。もうこの先長くないかもしれない──そう直感した。それでも戸井さんは、一度は寛解した成功体験があるからか、闘病のつらさをこぼすこともなく、「見た目はしんどそうに見えるかもしれないけど大丈夫。これからうんと仕事するよ」と言って笑った。

 翌日、さっそく上司に戸井さんのインタビュー集の企画を相談した。「ご本人はまだ仕事を続けると言ってましたが……たぶん、これが戸井さんの“最後の本”になると思います。なんとかこの企画をやらせてください」。上司の答えは、「わかった、企画を進めていいよ。ただし、どう売るのか、宣伝方法もよく考えて。他にも、売れる本をどんどん出してくれよな」。口調は厳しかったが、そっと背中を押してもらった気分だった。上司の了解を得たと伝えると、戸井さんも、とても喜んでくれた。

 翌二〇一三年五月、再会した戸井さんは、髪の毛も増えて、少し元気を取り戻したように見えた。すでに取材済みの四人に加え、新たに俳人の金子兜太さんに長時間インタビューをする段取りをととのえて、いよいよ本づくりに取りかかることになった。

 ところがその矢先、病状が急速に悪化。七月下旬、戸井さんはあっけなく逝ってしまった。享年六十四。最期を見送ることもできず、大きな“宿題”だけが残された。

もはや『戸井十月インタビュー集』をまとめることはできない。でも、代わりに「戸井十月という人間は何をやって、これから何をやろうとしていたのか」という括りなら一冊にまとめられるかもしれない。それこそ戸井さんの仕事を集大成した“最後の本”になるだろう……。そう考えて、再び上司に相談に行った。答えは、今度も「わかった。いいよ」だった。黙って頭を下げた。

 しかし、一年以内に刊行予定だった本書は、翌年になっても、その翌年になってもまとまらなかった。ジャンルも国境も越え続けた“越境者”の仕事はあまりにも多岐にわたり、その仕事ぶりを聞くために会った知人・関係者は百人以上に及んだ。武蔵美の同級生、ライター・作家仲間、バイクレースや撮影スタッフ……様々な人たちが戸井さんとの思い出を語ってくれた。そのたびに、新たな戸井十月像が活き活きと再現されていく。時には、戸井さんが天国から降りてきたんじゃないかと錯覚する場面もあった。それは、とても不思議な体験だった。

 三年近くかけてようやくまとまった本書は、当初の予定の二倍、九百ページ近い大著になってしまった。背幅が四センチを超え、持ち重りのする見本を手にした戸井さんの友人の一人は、この本を“弁当箱”と形容した。

 出来たばかりの“弁当箱”を眺めながら、こんなに時間と手間をかけた仕事はもう二度とできないだろうと思ったが、よく考えてみれば、戸井さんは今の私の年齢(四十八歳)から、十二年間にも及ぶ「五大陸走破の旅」に取りかかり、その間に中南米で革命家チェ・ゲバラの足跡を丹念に辿り、小野田寛郎さんをはじめとする数々の人物インタビューを形にしていったのだった。

 この本の厚さと重さは、そんな戸井さんの人生の密度を表わしている。

編集担当 関哲雄(小学館 週刊ポスト編集部)

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戸井十月(とい・じゅうがつ)
1948年10月東京都新宿区百人町生まれ。武蔵野美術大学中退後、作家、ルポライター、映像ディレクターなど様々な分野で活躍。チェ・ゲバラの足跡を辿り詳細なルポにまとめたほか、小野田寛郎、植木等らの評伝を残した。また、メキシコのオフロードレース「バハ1000」への参戦やバイクによる「五大陸走破の旅」でも知られる。海外渡航歴は63か国・地域に80回、総走行距離は約30万・に及ぶ。2013年7月逝去。 著書に『旗とポスター』『越境記』『植木等伝「わかっちゃいるけど、やめられない!」』『道、果てるまで』ほか、ドキュメンタリー作品は『ゴミと戦う賢者の知恵』『生き抜く・小野田寛郎』『チェ・ゲバラ 遥かな旅』『しげると布枝』など多数。

小学館 本の窓
2016年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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