『家族システムの起源 I ユーラシア』 エマニュエル・トッド著

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家族システムの起源(上) 〔I ユーラシア〕

『家族システムの起源(上) 〔I ユーラシア〕』

著者
エマニュエル・トッド [著]/石崎 晴己 [監修・翻訳]/片桐 友紀子 [訳]/中野 茂 [訳]/東松 秀雄 [訳]/北垣 潔 [訳]
出版社
藤原書店
ISBN
9784865780727
発売日
2016/06/24
価格
4,536円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『家族システムの起源 I ユーラシア』 エマニュエル・トッド著

[レビュアー] 月本昭男(旧約聖書学者・上智大特任教授)

砕かれる「思い込み」

 四半世紀前、『新ヨーロッパ大全』においてE・トッドは、ヨーロッパ各地域の宗教および文化的伝統を家族の型との関連で説明してみせた。その後20年をかけて著した本書では、ユーラシア大陸全域にわたる膨大な民族学的資料を駆使して、父系にも母系にも一方的に偏ることのない核家族こそが人類の家族システムの起源ではなかったか、と問い詰めてゆく。そう問い詰める著者の方法がまた独創に富む。

 まず、ユーラシア大陸のゆうに200を超える民族に観察されてきた多様な家族の型を、東アジアから欧州まで六つの地域ごとに、丹念に地図上に落としてゆく。そこに、たとえば農業の発達がもたらす人口稠密(ちゅうみつ)化によって形成される直系家族制など、地域特有の歴史的経緯が観察される。さらに、いったん形成された父系家族制への同化や対抗、古い家族制が残存する周縁部などといった視座から、ほとんど全ての家族制の生成が歴史的に解釈されてゆく。こうした解釈に基づき、最も単純な核家族が人類最古の家族制であったこと、ロシア以東のユーラシア世界の大部分を覆う族外婚制父系共同体家族は中国とメソポタミアにおいて定住社会が遊牧社会と接触するなかで成立したこと、などが推察される。文化人類学者を当惑させてきた中東イスラム父系社会の族内婚などは、イスラム以前の遊牧社会のそれを継承するという。

 本書は、レヴィ=ストロース『親族の基本構造』に代表されるような、歴史経緯を捨象した構造主義からの訣別(けつべつ)を宣言するだけではない。本書によって、人類は母権制から父権制に転換し、大家族制から核家族へと移行してきた、といった単純な「思い込み」はみごとに砕かれてしまうだろう。家族制度から世界史に迫る本書は、人類にとって家族とは何であったのか、とあらためて考えさせずにはおかない。本書に続く第2巻ではユーラシア大陸以外の地域の家族制度が論じられる予定。石崎晴己監訳。

 ◇Emmanuel Todd=1951年生まれ。歴史人口学者、家族人類学者。仏・国立人口統計学研究所に所属。

 藤原書店 上4200円、下4800円

読売新聞
2016年8月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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