『科学者と戦争』 池内了著

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科学者と戦争

『科学者と戦争』

著者
池内 了 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004316114
価格
842円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『科学者と戦争』 池内了著

[レビュアー] 柴田文隆(読売新聞社編集委員)

 「科学に国境はない」。近代細菌学の祖ルイ・パスツールは言った。「だが科学者には祖国がある」と。

 この言葉の四半世紀後、第1次世界大戦が始まり、各国は化学兵器開発を進めた。独の毒ガス戦を主導したハーバーは「戦争の早期終結のため」と正当化し、優秀な研究者を引き入れた。第2次大戦では米の物理学者が原爆を開発。日本も理化学研究所などが原爆研究に乗り出した。戦時研究に関わった彼らの心情は愛国主義から日和見、面従腹背、抵抗と様々だった。

 本書はこうした戦時科学動員の歴史的事実、また現代の軍学接近の動向が丹念に紹介され、科学者の「栄光と挫折」が反省を込めて描かれている。科学の成果は民生にも軍事にも利用され得るが、このデュアルユース問題の重要性も各所で指摘されている。

 研究費獲得などを巡って、「役に立つ科学」という考えが前面に出る昨今。もちろん科学は社会と隔絶して存在するものではない。だが有用性の目的は何か。誰の役に立つべきなのか。科学者も一度は考えるべきだ。市民も、科学の動向に無関心ではいられない。

 岩波新書 780円

読売新聞
2016年8月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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