『写真関係』 石内都著

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写真関係

『写真関係』

著者
石内 都 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
芸術・生活/写真・工芸
ISBN
9784480815309
発売日
2016/06/16
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『写真関係』 石内都著

[レビュアー] 長島有里枝(写真家)

感傷的にならない筆致

 写真家として、また男性優位主義が根強く残る写真界における「女」として、先輩であり同志でもある石内都さん。本書は、二〇〇二年から二〇一四年のあいだに書かれた九篇(へん)のエッセイに、新しく書き下ろされた十二篇と、石内さんの代表作品の図版を加えたフォトエッセイ集だ。ご両親の馴(な)れ初(そ)めから、最新作『フリーダ 愛と痛み』撮影時のエピソードまで、幅広く自分と、写真のことが書かれている。

 読後は、とにかく強い人という石内さんの印象が変わった。一九七九年、女性初の木村伊兵衛賞受賞を果たしたころは、地元横須賀や人気(ひとけ)のないアパートなどをモノクロで撮った荒いタッチの写真で、どちらかというと男っぽい作風という印象をわたしは持っていた。言葉のない写真表現から受けとる印象は、あてずっぽうに解釈することが可能だから、「男の街」を歩きながら撮影する石内さんの違和感に近い「思い」は、書かれなければ知ることがなかった。

 生まれ年が同じ女性の手足を撮影した『1・9・4・7』や、傷跡を撮影した『Scars』は、被写体の人生を語りながら、性の対象として鑑賞される女性のヌードで溢(あふ)れかえる世の中に、静かなアンチテーゼを唱えているかのようだ。

 「石内都」は本名でなく、群馬で最初の女性タクシードライバーだった母親の旧姓名だという。娘にとっておそらく強烈な存在であった母が遺(のこ)した日用品を写した『Mother’s』以降、石内さんは有名、無名を問わず、多くの女性たちの遺品を撮影している。残された品々を前に、戦時下の女性のささやかな愉(たの)しみや、フリーダ・カーロの肉体と精神の葛藤に思いを巡らせる石内さんの文章は、見たことがないはずの女性たちの表情を鮮やかに浮かびあがらせる。決して感傷的にならない筆致は、いかにもカメラを覗(のぞ)く人のものだ。しかし心を強く揺さぶられ、時々泣きそうになってしまう。

 ◇いしうち・みやこ=1947年生まれ。写真家。写真集に『ひろしま』『フリーダ 愛と痛み』など。

 筑摩書房 2800円

読売新聞
2016年8月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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