『国際主義との格闘 日本、国際連盟、イギリス帝国』 後藤春美著

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国際主義との格闘 日本、国際連盟、イギリス帝国 (中公叢書)

『国際主義との格闘 日本、国際連盟、イギリス帝国 (中公叢書)』

著者
後藤 春美 [著]
出版社
中央公論新社
ISBN
9784120048548
発売日
2016/05/19
価格
2,268円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『国際主義との格闘 日本、国際連盟、イギリス帝国』 後藤春美著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

平和維持への課題

 第一次世界大戦の惨禍を経て誕生した、人類初の普遍的国際組織・国際連盟。平和の維持を目的としながら、結果的に第二次世界大戦の勃発を防げなかったため、「失敗した機関」と見なされ、従来あまり関心を持たれてこなかった。しかし、そのグローバル・ガバナンスへの先駆的取り組みが再評価され、近年、連盟に関する研究は活況を呈している。

 著者はこうした研究潮流を牽引(けんいん)してきた一人で、本書において、アヘンの規制や中国への技術支援といった連盟の取り組みを、国内外の豊富な史料を用いて考察している。連盟が行った社会人道面での活動は、イギリスの帝国秩序や、当時のビルマなど近代的統治が及んでいなかった周縁の社会のあり方に変容を迫った。著者は、それらが第二次世界大戦後の国際連合に継承され、今日の国際社会で重視される分野に成長したと説く。

 これらの取り組みは「専門的、技術的」なものであり、「非政治的」であることが期待されたが、実際には政治と密接に結びついていった。とりわけ、1920年代後半に本格化した対中国技術支援は、折から中国との関係を悪化させていた日本からの強い反発を招いた。そもそも中国は、連盟を自らの国際的地位を向上させる場と捉えており、26年に非常任理事国に初当選するなど、成果を上げていた。連盟は、東アジアにおいては、いわば日中両国の角逐の場となっており、本書の分析からは、戦間期の中国外交のしたたかさが浮かび上がる。満州事変後、日本が連盟を脱退するに至ったことの意味は、こうした文脈からも理解できる。

 国際主義を具現化しているはずの国際機関の「非政治的」分野が、政治化してしまうという構図は、今日でも変わらない。ユネスコの世界文化遺産登録をめぐるせめぎ合いなどは、その典型例である。国際協調と国家の利己的行動をいかに止揚するか。国際連盟の経験は、今なお人類に重い課題を突きつけている。

 ◇ごとう・はるみ=1960年、東京生まれ。東大教授。専門は国際関係史。著書に『アヘンとイギリス帝国』など。

 中公叢書 2100円

読売新聞
2016年8月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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