『九鬼周造』 藤田正勝著

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九鬼周造 理知と情熱のはざまに立つ〈ことば〉の哲学

『九鬼周造 理知と情熱のはざまに立つ〈ことば〉の哲学』

著者
藤田 正勝 [著]
出版社
講談社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784062586306
発売日
2016/07/12
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『九鬼周造』 藤田正勝著

[レビュアー] 安藤宏(国文学者・東京大教授)

 『「いき」の構造』で知られる哲学者、九鬼周造の魅力にせまる。現実に密着した「生きた哲学」をめざし、概念と現実との往復運動を実践し続けたその思想をわかりやすく解説してくれている。

 九鬼は20世紀のドイツ哲学の黄金期に留学し、フッサールやハイデッガーに直接師事し、さらにパリに行ってベルグソンとも対話した。こうした恵まれた環境の中で、次第に「いき(意気)」という理念が日本文化の特色として発見されていく過程は実にスリリングだ。

 心ひかれるのは「哲学」と「文学」の相交わる通路である。ものごとを概念化しようとすると、そこからこぼれ落ちてしまう要素がある。彼はこれを「偶然」という観点から考えようとした。異なる世界が偶然出会い、交差していくことの不確かさ――それははかなくもろいものだが、それゆえにこそ美しい。言語によるその実践例を九鬼は詩の音韻に発見する。音と意味の一瞬の出会いによって、無限の時間が立ち現れるのだという。哲学と文学の臨界点にせまるその思想もまた、まことにうるわしく、美しい。

 講談社選書メチエ 1600円

読売新聞
2016年8月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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