【特別企画】『週刊読書人』編集長・明石健五が選ぶ、「憲法のツボがわかる本」

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  • 憲法の無意識 (岩波新書 新赤版)
  • 憲法の涙 : リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください 2
  • 日本国民であるために

書籍情報:版元ドットコム

【特別企画】『週刊読書人』編集長・明石健五が選ぶ、「憲法のツボがわかる本」

[レビュアー] 明石健五(『週刊読書人』編集長)

photo1

このあいだの参議院議員選挙では、「憲法改正」については、ほぼ論点とはなりませんでした。ただし、安倍晋三首相(自民党総裁)が選挙戦勝利後に改めて触れたように、自民党は立党以来、「現行憲法の自主的改正」を党是としてきたわけです。二〇一〇年綱領においても、「新憲法の制定を目指す」ことが謳われていました。近い将来、改正(改悪?)に向けて、国会で議論が進むに違いありません。改憲には、最終的に国民投票が必要となってきます。まさに一人一人の判断によって左右されるのです。イギリスのEU離脱騒動を思い起こしてみてください。あの結果に、本当の民意が表われていたのでしょうか。改憲にイエスもしくはノーの一票を投じるにしても、国民全体で広く意見を戦わせ、熟慮の末に臨みたいと思います。そのための参考となる三冊を紹介します。

book1

柄谷行人『憲法の無意識』(岩波書店)
戦後70年、様々な改憲論(運動)に晒されながらも、なぜ憲法改正は実現されなかったのでしょうか。フロイトの「超自我」の概念を踏まえながら、九条が維持されてきた謎を解き明かしていきます……。憲法一条と九条のあいだにある相補・相関関係について、あるいは九条の先行形態としての「(江戸)徳川の体制」など、興味深い論点がいくつも提起されます。第一次世界大戦は、サラエボの数発の銃声によってはじまりました。あれから百年余り、いつまた世界戦争がはじまってもおかしくない状況にあります。それを阻止するために、日本が出来る唯一のこととは何でしょうか。「憲法九条を文字通り実行すること」だと、著者は言います。「非現実的」と思われるかもしれませんが、「理想」を掲げることを、決してやめてはいけない。柄谷さんの本を読むと、そのことを強く思います。

book2

井上達夫『憲法の涙』(毎日新聞出版)
改憲派・護憲派の矛盾と欺瞞を鋭く突いた一冊です。双方によって政争の具にされ、利用されてきた憲法は、今「涙している」──著者のその思いが、タイトルに表われています。憲法の役割と安全保障に関する基礎知識を整理し、今までになされた改憲論議を概観します。「徴兵制」を導入せよとの提案には一瞬仰天しますが、これは「良心的兵役拒否」と「無差別公平」をセットにした構想でもあります。その上で、「米国主導の集団的自衛権体制から、国連主導の集団的安全保障体制に移行する」ことを求めます。井上さんは何よりも「国民的熟議」を重視します。現行の制度では、改憲の発議から最短2か月で国民投票が実行できる仕組みになっています。「時すでに遅し」となる前に、徹底的に話し合いを持ち、議論を深めることが肝要なのだと、井上さんは強調します。

book3

互盛央『日本国民であるために』(新潮社)
「戦後の日本は、憲法九条と日米同盟がともにあって初めて、完全な主権国家であることができる。しかし、それは民主主義の原理が機能不全を起こしている国家であるほかない」(261頁)。日本人は、なぜそのような特異な国家形態を保持し続けてしまったのでしょうか。「社会契約」や「基本的人権」「立憲主義」といった根本問題から考えていきます。憲法の成立過程を丹念に追いながら、いくつかの条文については、GHQの草案を参照しつつ、戦後日本が抱えるジレンマの源にあるものを明らかにします。
今年は憲法公布70年にあたります。今回紹介した3冊と合わせて、「日本国憲法」を再読し、自民党作成の「日本国憲法改正草案」(2012年)と比較分析する必要もあるでしょう。そこから広く「熟議」が始められることを期待したいと思います。

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明石健五(あかし・けんご)
早稲田大学在学中から自主製作で8ミリ映画を製作。卒業後、映像製作会社、公益社団法人等に勤務。二度の引きこもり生活を経て、1996年、株式会社読書人入社。2011年から編集長。1965年、東京生まれ。
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小学館 本の窓
2016年9・10月合併号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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