人口と日本経済 吉川洋 著

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人口と日本経済 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)

『人口と日本経済 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)』

著者
吉川洋 [著]
出版社
中央公論新社
ISBN
9784121023889
発売日
2016/08/19
価格
821円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

人口と日本経済 吉川洋 著

[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)

◆需要をつくる企業家精神

 「経済学と人口」は古くて新しい問題である。十八世紀末、マルサスは有名な『人口論』のなかで、食料が1、2、3、4…というように等差数列的にしか増加しないのに対して、人口は1、2、4、8…というように等比数列的に増加していくので、人口を抑制しなければ必然的に貧困に陥ると説いた。マルサスの人口法則は後々まで大きな影響を及ぼした。

 ところが、一九三〇年代のケインズが活躍する頃になると、反対に人口の減少が有効需要の減少を通じて雇用機会を奪うことが懸念されるようになった。そして、現代日本も、少子高齢化社会と呼ばれるように、人口の減少が続けば将来深刻な事態を招く恐れがある、としばしば指摘されるようになってきた。ある推計では、現在の人口一億二七〇〇万人が百年後に三分の一となるという。

 だが、著者は、過去の統計や冷静な経済理論に基づけば、日本の未来を人口の減少だけを理由に真っ暗なものとして描くことは間違っていると主張する。産業革命以来、経済成長は人の数ではなくイノベーションによって実現されてきたのであり、高度成長期の日本も例外ではない、と。

 イノベーションというと経済学者シュンペーターの名前が思い浮かぶが、例えば「プロダクト・イノベーション」、つまり新しい商品やサービスの創造は、経済の供給面だけに関係するのではなく、企業家精神の発揮を通じてそれに対する需要を呼び起こすというように、有効需要とイノベーションの好循環を実現するというのが著者の持論である。

 もちろん、成長よりも分配のほうが優先されると主張する人たちは昔から存在するが、著者は古今東西の偉人の言葉を引きながら、「反成長」や「反経済」にはくみしない。自説とは違う思想にも配慮しながら、慎重に書かれた優れた啓蒙書(けいもうしょ)であり、立場の差を超えて、一読に値する好著である。
 (中公新書・821円)

 <よしかわ・ひろし> 1951年生まれ。立正大教授。著書『デフレーション』など。

◆もう1冊 

 松谷明彦・藤正巖著『人口減少社会の設計』(中公新書)。人口減少を肯定的にとらえ、居住空間や余暇の充実など成熟した将来像を示す。

中日新聞 東京新聞
2016年9月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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