日本人とこの樹木の深い結びつきとは

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欅(けやき)

『欅(けやき)』

著者
有岡 利幸 [著]
出版社
法政大学出版局
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784588217616
発売日
2016/05/23
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

日本人とこの樹木の深い結びつきとは

[レビュアー] 稲垣真澄(評論家)

 とりわけケヤキが好き、という樹木ファンも少なくない。格別派手ではないが、細い枝先を天に伸ばし、全体ではおおどかな扇形を描く樹影のかたちよさ。うす緑の芽吹きから秋の黄葉まで、折々に変わる色調の美しさ。社寺建築(や昔の民家の大黒柱)に使われることの多い建築材としての堅牢さ。家具材としての味わいの深さ。

 こうした愛着は、一時の流行で短時日のうちに作られたものではなかろう。日本列島の各所で、日本人がケヤキとともに過ごした時間の長さが、自然に熟成させてきたものに違いない。スギやヒノキと並んで、ケヤキは明らかに日本を代表する樹種の一つである。

 本書はそんなケヤキと日本人との関わりに、なるべく多方面から迫ろうとする。第一章「ケヤキの植物誌」は、天然記念物の巨樹や縄文・弥生期のケヤキ利用などを問い、第二章「槻(つき)と呼ばれたころのケヤキ」は、かつてツキと呼ばれたケヤキを聖樹視し、ケヤキ巨樹の近くに王宮を築くまでした古代王朝の様子や、ツキ、ケヤキの語源をたずねる。

 第五章「領主と槻(ケヤキ)」は、江戸期の藩ごとの厳しい樹木保護策を紹介し、第六章「欅材とその利用」は言葉通りの内容で、建築、漆器、太鼓胴用材など現在の利用法。さらに最終の第七章「欅林を育てる」は、著者自身の営林局での実務経験にもとづく、これからケヤキを育成するためのハウツーだ。

 ケヤキは、針葉樹のスギやヒノキとは異なり、木口に鏨(たがね)などを当て打撃を加えても、まっすぐ縦に裂けることがないため、中世初頭に縦引きノコギリが移入される以前は加工が至難で、角柱や板材として利用されることは少なかった。その代わり、掘立て柱のラフな円柱としてなら大いに重宝された。

 たとえば、弥生時代中期後半の大阪府・池上曽根遺跡出土の大型建物跡は、十八個の柱穴に十六本のヒノキ、二本のケヤキの柱根が残っていた。同じく奈良県、唐古・鍵遺跡の弥生時代中期中葉の大型建物跡は、柱穴二十三個のうち十八個に柱根が残り、すべてがケヤキだったという。直径八十センチ、長さ十メートルの巨木らしい。

 記紀や万葉、続日本紀などにも「齋(いわ)ひ槻(つき)」「齋槻(ゆつき)」「五十槻(いつき)」「百/枝槻(ももえつき)」などツキを聖別する言葉が頻出し、「双槻宮」「両槻宮」といった名称は王宮・離宮とケヤキとの深い結びつきを示唆する。実際、ツキの下では新嘗祭後の宴会が開かれたり、種子島や蝦夷の男女が饗応されてもいる。大化改新の名コンビ、中大兄と鎌足は飛鳥寺のツキの下で運命的な出会いを果たしたことになっている。してみるとツキの有力語源説「神霊が憑(つ)く木」も、大いにうなずかれようか。

 ああ、どこかケヤキ並木を歩いてみたい。

新潮社 新潮45
2016年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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