『冬の王 ヘンリー七世と黎明のテューダー王朝』 トマス・ペン著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

冬の王

『冬の王』

著者
トマス・ペン [著]/陶山 昇平 [訳]
出版社
彩流社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784779122446
発売日
2016/07/07
価格
4,860円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『冬の王 ヘンリー七世と黎明のテューダー王朝』 トマス・ペン著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

「闇の君主」の本格評伝

 フランスとの百年戦争に敗れたイングランドは、後に薔薇(ばら)戦争と呼ばれた王族間(ランカスター家vsヨーク家)の血(ち)腥(なまぐさ)い内戦に突入した。そして、最後に勝ち残ったのがランカスター家傍系のヘンリー・テューダー(ヘンリー7世)だった。6人の妻を持ったヘンリー8世やエリザベス女王(1世)で有名なテューダー朝の幕開けである。本書は、闇の君主と呼ばれ、これまで語られることの少なかったヘンリー7世の本格的な評伝である。

 ヘンリー7世は4半世紀にわたってイングランドに君臨したが、本書は治世の後半から筆を起こす。長い亡命で辛酸を嘗(な)め尽くしたヘンリーは、権謀術数を尽くして国内に安定をもたらす。アーサー王太子にはスペインからキャサリン妃を迎える。ヘンリーは、王家の権力や永続性を示す婚儀に金に糸目はつけなかった。しかし、直後に舞台は暗転し、ヘンリーは、世継ぎと王妃エリザベスを立て続けに失う。ヨーク家嫡出の才色兼備で穏やかな王妃は両家の和解を一身に体現した存在だった。こうしてヘンリーの宮廷からは全ての光が失われたのである。

 ヨーク家の策動は止(や)まない。誰も信じられないヘンリーは、2人の顧問官を手足に人々に財産罰を科して金を貯(た)め込み絶対王政への道を突き進む。人々の希望は次男のヘンリー王子、いうなれば、ヘンリー8世は春であり、その父は冬なのだった。著者はこの過渡期の時代を書簡や帳簿等の一次資料を渉猟して見事に浮き彫りにした。トマス・モアとエラスムス、すべてを取り仕切ろうとする王母マーガレット、嵐で漂着したフィリップ美公と妃のフアナなど著名な脇役に係る多くのエピソードも興味深い。ヘンリーは後にフアナが精神を病んでいるとの報告は荒唐無稽だと断じている。春のヘンリー8世がその後に歩んだ道を考えると(ヒラリー・マンテル『ウルフ・ホール』、『罪人を召し出せ』など)、本書はとりわけ感慨深い。陶山昇平訳。

◇Thomas Penn=ペンギン・ブックス(UK)エディトリアル・ディレクターの傍ら、執筆活動を行う。

 彩流社 4500円

読売新聞
2016年9月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加