『21世紀を創る 大平正芳の政治的遺産を継いで』 渡辺昭夫編著

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21世紀を創る 大平正芳の政治的遺産を継いで

『21世紀を創る 大平正芳の政治的遺産を継いで』

著者
渡邉昭夫 [編]
出版社
PHP研究所
ISBN
9784569831312
発売日
2016/06/15
価格
3,888円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『21世紀を創る 大平正芳の政治的遺産を継いで』 渡辺昭夫編著

[レビュアー] 村田晃嗣(国際政治学者・同志社大教授)

哲人政治家の軌跡

 大平正芳が亡くなったというニュースは、鮮明に覚えている。独特の風貌と語り口は「イケメン政治家」や「ワンフレーズ政治」とはほど遠い。だが、彼の政治哲学や総合安全保障、環太平洋連帯構想といった外交ビジョンは、今日ますます意義深いものになっている。

 本書の第一部では、大平を個人的にもよく知る学界の2人の長老が、文明論的な観点と政治外交史的な観点から大平論を展開している。ものごとには二つの中心があって、両者の緊張と均衡の上に政治や行政は円滑に進むという大平の「楕円(だえん)の哲学」や、国際政治家としての彼の思想形成が、ここで提示されている。

 第二部と第三部は座談会を収録している。第二部では、大平の伝記を記した福永文夫が大平の人物像と思想を簡潔に語り、大平に首相秘書官として仕えた2人の元官僚がそれを補い、立体的な大平像が彫琢(ちょうたく)されていく。

 第三部では、大平の残した政策課題が今日の文脈から議論されている。まず、「中国からみた世界および環太平洋」では、4人の国際政治学者がまさに侃々諤々(かんかんがくがく)の中国論、アジア論を展開している。中国の意図や将来についての意見の相違もあり、知的刺激に満ちている。次いで、「米国からみた世界および環太平洋」でも4人の国際政治学者が縦横に議論を交わし、アメリカのアジア戦略の変遷や日本を取り巻く厳しい安全保障環境が多角的に分析されている。そして、「グローバル経済展望」でも、5人の経済学者がTPPや中国、ASEANをキーワードにアジア太平洋の経済動向について検討を重ねている。さらに最後に、公文俊平が大平の「時代認識」を手がかりに21世紀を巨視的にとらえる分析を紹介している。

 20世紀を生きた一人の哲人政治家の軌跡を通じて、21世紀の国際的課題を考察する豊かな内容の書物であり、様々な世代の学者たちの生の声が織りなす多彩な議論を堪能できる。

◇わたなべ・あきお=1932年生まれ。東京大及び青山学院大名誉教授。著書に『大国日本の揺らぎ』など。

 PHP研究所 3600円

読売新聞
2016年9月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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