『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』 中村計著

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勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇

『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』

著者
中村 計 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087890068
発売日
2016/08/05
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』 中村計著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

名将の栄光と挫折

 〈人一倍、臆病で繊細な反面、驚くほど大胆で不遜――〉

 本書の主人公・香田誉士史(よしふみ)の人物像を、著者はそのように表現する。相反する性質を抱え込んだ一筋縄にはいかない人、ということだろう。

 香田は2004年、駒大苫小牧高校の監督として、北海道初の甲子園制覇を成し遂げた名将だ。翌年には57年ぶりとなる夏の2連覇。さらに翌々年は伝説的な決勝再試合となった早稲田実業戦で、3連覇にぎりぎりまで近づいた。

 ほんの数年前は無名だった駒大苫小牧を、彼はいかにして快挙へと導いたのか。著者は20代のひとりの若者が北海道に徒手で赴任し、選手たちや北国の風土と真っ向から対峙(たいじ)してチームを鍛え上げた過程をまずは描いていく。

 だが、本書を「なぜ彼らは勝てたのか」式のサクセスストーリーとして読み始めた私は、途中からの物語の暗転に意表を突かれ、頁(ページ)をめくる手が止まらなくなった。そしていま、本を閉じて思うのは、この作品は頂点に立った指導者がそれ故に抱え込んだ光と影を、清濁併せ呑(の)んで描いた剥(む)き出しの人間ドキュメントであったということだ。

 「幻の3連覇」に至る過程で、同校では体罰問題や選手の飲酒問題が重なり、対応に追われた香田は次第に心を壊していく。著者はその赤裸々な回想に寄り添うことで、勝利と引き換えに彼が何を失ったかを浮かび上がらせる。

 田中将大と斎藤佑樹が投げ合った06年。すでに勝利に対して疲れ切っていた香田が〈負けへの誘惑〉に駆られるも、一方で勝つための采配を本能のように振るおうとするシーンなどは、心を揺さぶられずにはいられなかった。書いた著者もすごいが、自らをさらけ出してこれを書かせた香田もすごい、と思ったからである。

 名誉と不名誉、栄光と挫折。それらは常に表裏一体のものとしてあることを、ひとりの男の生き様を通して教えられた一冊だ。

 ◇なかむら・けい=1973年、千葉県生まれ。主にスポーツノンフィクションを執筆。著書に『佐賀北の夏』など。

 集英社 1700円

読売新聞
2016年9月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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