『ビル・クリントン』 西川賢著

レビュー

0
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

『ビル・クリントン』 西川賢著

[レビュアー] 村田晃嗣(国際政治学者・同志社大教授)

冷戦後の米国を象徴

 ヒラリーかトランプか――プロレスの様相を呈するアメリカ大統領選挙も、いよいよ佳境に入りつつある。そして、ヒラリー・クリントンを理解するにも、過去四半世紀のアメリカ政治を考察するにも、ビル・クリントン大統領と彼の政権についての分析が不可欠である。

 ビルに関しては、すでに大部の回顧録も翻訳されているが、信頼できる研究者が簡潔で読みやすい評伝を提供してくれた。ビルの複雑な政治的人格と内政・外交の双方にわたる彼の多彩な業績が、一冊の新書に凝縮されている。

 不遇な生い立ちを経て、ビルは挫折やスキャンダルを繰り返しつつ、それらを克服し、ついには大統領にまで登り詰めた。弱冠46歳であった。共和党と激しく対立し、不慣れな外交政策で失敗を重ねながら、ビルは時には妥協を辞さず、リベラルから中道へ舵(かじ)を切ることで、再選を果たした。やがて、ビルは財政均衡に成功し、インターネット関連産業の躍進からアメリカ経済も好況を呈するようになった。だが、政権の末期にはモニカ・ルインスキーとの情事が発覚して、ビルは再び窮地に陥る。ビルは議会による弾劾を切り抜け、国民の支持も高かったが、政治における礼節や公正性を大きく傷つけることにはなった。

 著者によると、ビルは「ポスト冷戦のアメリカ」、「ポスト・リベラリズムの民主党」を象徴する指導者であった。彼は強靱(きょうじん)なレジリエンス(復元力)をもち、中道的政策で多くの業績を挙げた。しかし、その「クリントンの遺産」を定着させることはできなかった。今や共和党からも民主党からも「中道」は消失してしまった、と著者は言う。著者はアイゼンハワー政権以降の共和党中道路線の衰退を研究しており、マクロな視点でビル・クリントンを捉えている。果たして、ヒラリーは民主党の中道路線を復活させられるだろうか? 共和党はどうなるのか? 大統領選挙から、いよいよ目が離せなくなる。

 ◇にしかわ・まさる=1975年、兵庫県生まれ。津田塾大准教授。著書に『分極化するアメリカとその起源』など。

 中公新書 840円

読売新聞
2016年9月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加