地方創生の罠(わな) 山田順 著

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地方創生の罠

『地方創生の罠』

著者
山田, 順
出版社
イースト・プレス
ISBN
9784781650715
価格
997円(税込)

書籍情報:openBD

地方創生の罠(わな) 山田順 著

[レビュアー] 沼田良(政治学者)

◆バラマキで進む依存

 地方創生の政治過程を、都市部の納税者はどのように見ているのか。本書の問題提起は、それを探る好材料である。論証の過不足を措(お)くならば、施策の前提に織り込みたい辛口の指摘が満載だ。

 本書によれば、地方創生は稀代(きたい)の愚策である。安倍内閣による公費のバラマキが、自治体の国依存を助長させ「地方消滅」を加速する。したがって国はバラマキ振興策をやめ、自治体は適正規模にダウンサイズして生き残りを図るべきだ。財政破綻後の夕張こそ教訓になる、という。いわゆる低位安定の路線か。

 以下の二点が気になった。第一は、ゆるキャラなど周辺現象の記述に比べて、創生策プロパーの分析がやや手薄なことだ。水増しの人口ビジョンと総合戦略を自治体に作らせて新型交付金を撒(ま)く。移住・仕事づくり・働き方改革は人口減少対策になるのか。一極集中を是正すべき「創生本部」をなぜ東京に置くのか。この政策体系は幾重にも難題を抱える。

 第二に、本書の低位安定案でもなお十分とは言い難い。創生策は当初、人口問題等の改善によるバラマキの抑制を狙っていた。成果の出た自治体を選択し、国の支援を集中するからだ。しかし現状は「新しいバラマキ」を生み出すなど、目標と結果が転倒しつつある。問題の核心はここにあるだろう。この惰性に終止符を打つための処方箋こそが待たれる。
(イースト新書・980円)

<やまだ・じゅん> 1952年生まれ。作家・ジャーナリスト。著書『円安亡国』など。

◆もう1冊 

 牧野知弘著『老いる東京、甦(よみがえ)る地方』(PHPビジネス新書)。上り経済から下り経済へ変わる時代の地方活性化論。

中日新聞 東京新聞
2016年9月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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