『挽歌の宛先 祈りと震災』 河北新報社編集局編

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挽歌の宛先

『挽歌の宛先』

著者
河北新報社 [著]/河北新報社編集局 [著]
出版社
公人の友社
ISBN
9784875556848
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『挽歌の宛先 祈りと震災』 河北新報社編集局編

[レビュアー] 高野ムツオ(俳人)

被災の昏迷から未来へ

 ページをめくるたびにさまざまな問いが投げかけられる。生とは何か、死とは何か。自然は人間にどんな試練を与え、何を教えようとしているのか。東日本大震災で失ったもの、蘇(よみがえ)ったものは何か。どれもが、生きるための根源的な問いだ。しかし、正答はない。いや無数にあるというべきか。人々の数だけ答えは用意されている。そして、自分にあった答えを一途(いちず)に模索していくことが、おそらくは震災以後を生き抜くに不可欠な前提なのである。

 本書は東日本大震災の被災地、仙台に本社を置く河北新報社の報道部が、その力を結集して取材し、2015年1月から7月まで連載したものの集約である。被災者の悲しみや今を生きる姿、それに被災者に寄り添う宗教者たちの祈りや苦悩などが、真摯(しんし)な筆致と挿入された写真から熱く伝わってくる。被災地に拠点を持つ作家やさまざまな表現者からの伝言、読者の反響も示唆と厚みを加えている。そして、宗教学者山折哲雄が、この未曽有の災禍に生きる人々へのエールとも言える文章を三度寄せている。

 その一つ一つに共鳴し、ときには感動で胸が疼(うず)くが、同時に、災禍後を生きる困難も切実に胸に迫ってくる。自然は、私たちを胞衣(えな)のように慈愛をもって包む母なる存在。地震や津波は、その母の一部分と受け止めることもできる。その時、無常観の向こうに鎮魂と救済の灯が見えてくる。

 だが、福島の原子力発電所事故は、戦争と同じ人災。その未来はあまりにも混沌(こんとん)として過酷だ。断ち切られた地域や家族の絆、若者たちの夢の復活もまた厳しい。

 本書はそうした被災の昏迷(こんめい)を踏まえた、未来の人々へのメッセージともいえる。挽歌(ばんか)や祈りはまず死者に向かうものだが、やがて、黄泉(よみ)から生者を照らし出す。そして、未来に向かって生きる力へと転化を促す。大震災の風化が著しい今日、そう確信できた貴重な一冊である。

 公人の友社 1600円

読売新聞
2016年9月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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