『心とはなにか』
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心とはなにか 竹村牧男 著
[レビュアー] 岡野守也(仏教心理学者)
◆仏教の探究を幅広く案内
外側からいくと、アイボリーの紙で文字だけの表紙、白い帯の装丁、三十八文字十四行のゆったりとした組み、本文百八十七ページの造本は、軽くさっぱりとした感じで手に取りやすかった。
やや平凡と言えなくもない「心とはなにか」というタイトルの後の、「仏教の探究に学ぶ」というサブタイトルに、読み終えてから「なるほど」と深くうなずいている。二千五百年におよぶ長く豊かな仏教の心の探究について、原始仏教からアビダルマ、唯識、如来蔵思想、浄土教、禅、真言まで幅広くカバーしながら、深くかつ正確な理解にもとづいて、しかもできるだけわかりやすくコンパクトに語るというのは、誰にでもできる技ではない。
著者は、仏教学者・著述家として、その世界ではすでによく知られているが、東大印度哲学科卒、筑波大学教授、現在東洋大学学長という履歴が物語るように、きわめて本格的なスタンスで仕事をしてこられたので、一般にはまだ十分知られていないかもしれない。しかし、今回は一般向けを目指した語り下ろしということもあって、これまでになく読みやすかった。
肝腎の内容について言えば、豊かな学識と確かな修行体験をベースに適度な啓蒙(けいもう)性がミックスされている。読み終えて、全体としては軽く爽やかだったが、ところどころ噛(か)みごたえ・読みごたえもあり、コクのあるいい後味が残っている、という感じだった。
特に、全体としてはちゃんと解説しながら、ところどころ現代語訳なしに原文だけ引用するというスタイルは、読み終えてもっと学びたいという意欲を湧かせる程度にはわかりやすく、しかし説明しすぎてわかった気にさせ、そこで学びが止まってしまうということのないよう配慮した、巧みな方便なのかもしれないと感じさせられた。「適度な啓蒙性」とは、そういう意味である。
ともかく、読み飛ばし・読み捨てをさせない、優れた啓蒙書だと思う。
(春秋社・2052円)
<たけむら・まきお> 1948年生まれ。東洋大学長。著書『<宗教>の核心』など。
◆もう1冊
南直哉・来住(きし)英俊著『禅と福音』(春秋社)。輪廻(りんね)や復活をはじめ、戦争、死刑、グローバリズムなどについて禅僧と神父が対話。