『すべての見えない光』 アンソニー・ドーア著

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すべての見えない光

『すべての見えない光』

著者
アンソニー・ドーア [著]/藤井 光 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784105901295
発売日
2016/08/26
価格
2,916円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『すべての見えない光』 アンソニー・ドーア著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

少女と少年 魂の邂逅

 戦争を背景にした作品には名作が多い。第二次世界大戦かつ比較的新しい作品に限ってみても、『朗読者』や『HHhH』などが反射的に脳裏に浮かぶ。本書は、パリの博物館に勤める父のもとで育った目の見えない少女マリー=ロールと、ドイツの炭坑町、ツォルフェアアインの孤児院で育てられた少年ヴェルナーの一瞬の魂の邂逅(かいこう)を描いた珠玉の小説である。

 何気なく離れて置かれた石が勝負が進むにつれて大きな意味を持ってくる囲碁のように、2人は大回りをしながらフランス北部のサン・マロに引き付けられていく。少女は父と共にドイツ軍が迫るパリを離れてサン・マロの大叔父のもとへ。親子の逃避行は映画「禁じられた遊び」そのままだ。ドイツ軍の技術兵となった少年は、東部戦線のウクライナからウィーンを経てサン・マロへ。そして物語は1944年8月7日、米軍のサン・マロ大空襲で幕を開ける。

 500ページを超す長編が読者の心を鷲掴(わしづか)みにするのは、3つの要素が全て整っているからではないか。先(ま)ず、登場人物の造形の確かさ。ヴェルナーの妹ユッタの目は何事をも見逃さない。兄妹を慈しむエレナ先生。「百万年たってもずっと一緒にいるからね」が口癖のマリー=ロールの父。大叔父エティエンヌや家政婦マネック夫人、どの人物も魅力的なこと、この上ない。次に、狂言回しの巧みさ。炎の海と呼ばれる伝説のダイヤモンド、ラジオ(ラジオを直すことからヴェルナーの能力が開花。レジスタンスが活用するラジオ。そして2人を結びつけるラジオ)、少女のために父が作った町の模型。最後に、構成の妙。大空襲の次は10年前の少年と少女。物語は、破壊されたサン・マロと過去、少年と少女を交互に配置して187のエピソードを見事に紡いで展開していく。特筆すべきは、描写の細やかさ。細部に至るまで神経が行き届いていてどのページも美しい絵を見るようだ。サン・マロを再訪したくなった。藤井光訳。

 ◇Anthony Doerr=1973年、米オハイオ州生まれ。2015年度、本作でピュリツァー賞。

 新潮クレスト・ブックス 2700円

読売新聞
2016年9月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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