『宗教を物語でほどく』 島薗進著

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『宗教を物語でほどく』 島薗進著

[レビュアー] 月本昭男(旧約聖書学者・上智大特任教授)

童話から現代小説まで

 宗教は迷信に基づくがゆえに、科学が進歩すれば消滅する、と言われた時代があった。今日、そう考える人はまずいない。統計数理研究所の調査によれば、「あの世」を信じる日本人の割合は1958年の20%から2013年には40%へと倍加している。伝統宗教の固陋(ころう)なあり方には種々の疑問が投げかけられこそすれ、「宗教的なるもの」への志向は人々の間に衰える気配をみせない。ならば、世俗化した現代社会において宗教的なるものはどのような姿をとるのか。

 著者は日本を代表する宗教学者として、このような現代宗教の問題に多方面から取り組んできた。本書では、童話から現代小説まで、多様なジャンルの物語に織り込まれた宗教性を紡ぎ出してみせてくれる。宗教性とは、この場合、自らの惨めさを思い知らされた人が、なお、その惨めさに向き合って生き抜くために見出(みいだ)す何かであり、存在することへの勇気の源である。

 人生は、往々にして、自らの弱さにつまずき、災厄や苦難に翻弄され、死がその最後を閉ざす。古来、宗教は可視的世界を超えた価値を指し示すことによって、こうした不条理な人生に意味を与えてきた。だが、世俗化が進む現代社会では、伝統宗教は活力を失いつつある。それに代わって物語が大きな力を発揮する。

 著者は、人生における「死」「弱さ」「悪」「苦難」といった観点から四つの章を設けて、それぞれに3点ないし4点の物語を紹介する。物語には、アンデルセン『人魚姫』のように人口に膾炙(かいしゃ)した童話もあれば、西加奈子のような直木賞作家の作品も取りあげられる。いずれの場合も、主人公あるいは作者の立ち位置と思いとに寄り添うようにして、作品のもつ「宗教性」を読み取ってゆく。その平明な語り口に、半世紀近くもの間、宗教を通して人間を見つめ続けてきた著者ならではの深い洞察と温かい眼差(まなざ)しがみなぎる。本書の魅力がそこにある。

 ◇しまぞの・すすむ=1948年、東京生まれ。上智大グリーフケア研究所所長。著書に『国家神道と日本人』など。

 NHK出版新書 860円

読売新聞
2016年9月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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