朝ドラでは唐沢寿明が熱演 「暮しの手帖」元編集が語る“花森安治”

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ぼくの花森安治

『ぼくの花森安治』

著者
二井康雄 [著]
出版社
CCCメディアハウス
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784484162201
発売日
2016/07/28
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「暮らしの手帖」元編集者が語る伝説の編集長とそのポリシー

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 NHKの朝ドラ「とと姉ちゃん」が好調である。ドラマは雑誌「暮しの手帖」とその社長、大橋鎭子(しずこ)をモチーフとし、いま昭和30年代を描いている。そろそろ家電製品が出回り、暮しの手帖社は商品テストを行い、それが評判となり、売り上げを伸ばしてゆく時期だ。

 大阪は飛田新地の近くに生まれ育った著者に暮しの手帖がインプットされ、大学卒業後、めでたく入社する。面接の折、著者は初めて花森安治を見る。おかっぱ風の長い髪の毛、肥っていて貫禄のある花森は、著者にこんな質問を発する。インスタントラーメンの中で好きな銘柄はありますかと。著者は、はい、日清の出前一丁ですと答えるのだが、著者は入社の後に、この返答が相当効いたらしいことを知る。

 入社が一九六九年で、以来著者は大橋鎭子社長と花森安治編集長のもと、商品テストや環境問題に明け暮れるのだが、編集長花森は超有能だけに仕事に厳しく、ずいぶん怒鳴られたと綴られる。機嫌がいいと一転ダジャレの人となり、話題は豊富で映画、音楽、絵画、落語と広範に及んだという。

 売りの商品テストを私は消費者のためとのみ理解していたが、もう一つ理由があった。「じつは、生産者のためのものである。生産者に、いいものだけを作ってもらうための、もっとも有効な方法なのである」と著者は花森のポリシーを紹介する。

 そして感銘を受けるのは花森の次の一文である。「僕は確かに戦争犯罪をおかした。言訳をさせてもらうなら、当時は何も知らなかった、だまされた。しかしそんなことで免罪されるとは思わない。これからは絶対だまされない、だまされない人をふやしていく。その決意と使命感に免じて、過去の罪はせめて執行猶予してもらっている、と思っている」

 朝ドラでは「花山」を唐沢寿明が演じている。容貌はだいぶ違うが、メッセージは受け取れるだろう。

新潮社 週刊新潮
2016年9月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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