【聞きたい。】開発好明さん『新世界ピクニック』 アート作品をトラックに積み被災地訪問
[文] 産経新聞社
東日本大震災の被災地に建設された巨大な堤防の前で、放射性廃棄物を詰めたフレコンバッグのそばで、シートを広げて弁当を食べる。本書はそんな写真群からはじまる。震災をモチーフにした作品集に、なぜポップなタイトルを?
「楽しげな響きと内容のギャップがあると思うんですけど、楽しい日常に急に大きな変化が起きて、その変化さえどんどん日常化していく。そういう事態への危惧も含めて、一見ライトだけど、だからこそ何かを感じてくれたらいいなと」
震災直後、ボランティアとして汗を流し、アート作品をトラックに積んで被災地を巡った。「ラーメン屋さんだったら炊き出しをしようと思うでしょう。アートを仕事にしている僕がアートを持って被災地を訪ねるのは自然だった」
無人になった地域の現実に衝撃を受けて、制作に取りかかる。「なにができるんだろうと。もちろん悩みました。アートの表現としてもどうなのか。でも風化していく方が怖い。それを少しでも引き戻せれば…という感じでした」
原発事故から1年後、福島県南相馬市の避難区域の手前に、視察に来る政治家のための休憩所「政治家の家」をつくり、国会議員に招待状を送った(現在まで訪問者はゼロ)。そんなふうに、被災地での体験や出会いから作品が生み出されていった。「ほんとにひとつひとつ生まれて、いま、ここに至ってます。通過点かもしれない。ここからまた別のものが生まれてくるかもしれない」
最近はアーティストという立場にもこだわっていないそうだ。「寄り添うってことが僕にとっては大切。自分の世界観を振りかざしても理解してもらえないし、必要ともされない。お手伝いという形でしたが、行ったから見えてくることって多い。でもみんな行きましょうよとも言えない。行かない人の代わりに、見てきたことを伝えるっていうのは必要なことじゃないですか」(リトルモア・2000円+税)
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【プロフィル】開発好明
かいはつ・よしあき 昭和41年、山梨県生まれ。アーティスト。観客参加型の美術作品を中心に制作。国内外で発表を続ける。