『新制大学の誕生 上・下』 天野郁夫著

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新制大学の誕生 大衆高等教育への道 上

『新制大学の誕生 大衆高等教育への道 上』

著者
天野郁夫 [著]
出版社
名古屋大学出版会
ISBN
9784815808440
発売日
2016/07/29
価格
3,888円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

新制大学の誕生 大衆高等教育への道 下

『新制大学の誕生 大衆高等教育への道 下』

著者
天野郁夫 [著]
出版社
名古屋大学出版会
ISBN
9784815808457
発売日
2016/07/29
価格
3,888円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『新制大学の誕生 上・下』 天野郁夫著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

 日本の大学が4年制なのはなぜ? 単位制の根拠は? 一般教育科目はなぜあった? 短大って何? 今では当たり前の高等教育制度は、戦後の短期間に整備された。私たちの多くが知らずに過ごしてきた歴史事実がここにある。明治、大正、昭和初期に大学が形成された様を論じてきた著者が、戦前戦後の決定的な時期について行った徹底検証が本書である。「戦後」もすでに70年を越え、一部に改革はあったが制度は固定化している。健全な見直しが必須である。

 国家主義的な戦前教育を改めるという課題は、GHQ、大学関係者、文部省3者のぎりぎりのせめぎ合いで遂行された。時間も人材も資金も乏しいなか出発した200以上の新制大学がどれほどの困難を抱えていたかは、想像に余りある。だが、そこでのもつれや歪(ゆが)みが現在にまで禍根を残したとすると、問題は深刻である。

 6・3・3・4制の導入は、複線的で階層固定的なヨーロッパ型教育システムから自由で単線的なアメリカ型への転換であった。先立つ戦争期の国策は高等教育機関の転換や乱立を招き、戦後の大学大衆化のきっかけとなった。軍部とアメリカという外圧によってしか制度改革が動かなかった歴史は、あまりに淋(さみ)しい。

 大学で研究し教える者として、私は自分の無知を痛感した。大学の在り方を問い「理想」を追求していくなかで、議論が空疎に陥らないため、経緯を弁(わきま)える必要がある。現今の問題の根には、新制度を立ち上げる過程で高等教育の理念がほとんど論じられなかった事実がある。だが、現在も理念が十分に論じられているとは言い難い。もう言い訳は許されない。

 敗戦という極限の状況で、将来の人材育成を考え、全く新しい体制を打ち立てた戦後期の人々の苦労が偲(しの)ばれる。今日の社会の礎を築いた努力を認識し、改めるべき点を論じる。本書はそのために必読である。出身や地域の大学の成立経緯を知りたい人にも、一読を薦めたい。

 ◇あまの・いくお=1936年、神奈川県生まれ。教育学博士、東京大名誉教授。著書に『試験の社会史』など。

 名古屋大学出版会 各3600円

読売新聞
2016年10月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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