『「野党」論 何のためにあるのか』 吉田徹著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「野党」論

『「野党」論』

著者
吉田 徹 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784480069030
発売日
2016/07/05
価格
864円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『「野党」論 何のためにあるのか』 吉田徹著

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

 同種の二つの商品が店頭に並んでいたとする。一方は使いやすく安心できるが、他方はどう見ても不良品。使いやすそうな方を買えば、もう片方は忘れてしまう。ところが現在の日本政治の場合、自民党といういくらかは信頼できる政党の傍ら、何という体たらくと言うべきか、内紛に明け暮れる野党がある。だが“早く退場してくれ”と言うわけにはいかない。本書の分析はここから始まる。

 政治を学としてとらえれば、権力に対抗する反対派が存在することは自明である。だが、それがあり続けるのは何のためなのかを一般向けに説明することは必ずしも容易ではない。ヨーロッパ比較政治を専門とする吉田氏は野党の役割を歴史に沿ってとらえる。リベラル・デモクラシーか社会主義かの体制選択が政治的争点であった時期、西側諸国の野党は社会主義の実現を目標に掲げた。冷戦終結後リベラル・デモクラシーへのコンセンサスが定着すると、政権交代こそ野党の目標となる。今や野党は自らの主張を粘り強く政治システムに挿入しなければならない。ドイツの緑の党が社会民主党と連立を組んだように。サッチャー政権下で左傾化したイギリス労働党が、脱皮してブレア政権を樹立したように。政党は代わり映えしない商品ではなく、絶えず変化する。その可能性に賭けるのがデモクラシーなのだ。

 このように抵抗型から政権交代型へと野党は変化してきたが、格差拡大に伴い「リベラル・コンセンサス」が疑われ始めた現在、求められるのは「対決型」だと吉田氏は展望する。少数派を代弁する抵抗型、政権獲得を使命とする政権交代型を受け継ぎ、国内と国際、個人と共同体という争点を包み込んだ政策を提示するべきだという。野党自民党内の少数派から党を制した安倍は、むしろ萌芽(ほうが)的な対決型野党として政権を奪取したのではないか。とすれば現在の野党陣営からそうした政党が現れることも期待してみたくなる。政治に絶望しない卓抜な本である。

 ◇よしだ・とおる=1975年生まれ。北海道大准教授。著書に『感情の政治学』『ポピュリズムを考える』など。

 ちくま新書 800円

読売新聞
2016年10月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加