『明るい夜に出かけて』
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「接触恐怖症」の男子を巡る 青春群像のゆきつくところ
[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)
「明るさを求める気持ちは、すでに、きっと暗い。でも、その暗さを心に抱える人を俺は少し信じる」
終盤の、主人公の独白である。小説の主な舞台はコンビニ。今期の芥川賞受賞作(「コンビニ人間」)とはまた違う角度から、光の箱のようなアジールとしてこの空間を描く。
大学を休学、都内の実家を出て神奈川県のコンビニでバイトしながらひとり暮らしを始めた富山。深夜ラジオのヘビーリスナーであり、かつてはファンの間でその名を知られたハガキ職人(投稿者)でもあったが、あることをきっかけにネットのコミュニティでプライバシーを晒され、それまでの自分と切り離された生活を送るようになった。
富山は、他人に触ることも、触られることもできない「接触恐怖症」で、そのために人を傷つけ、自分も傷ついた過去がある。深夜ラジオを友とし、頑なに人と距離を置こうとする彼に、果敢に近づいてくる若者がいる。バイト仲間の鹿沢。女子高生にして腕利きのハガキ職人の佐古田。高校時代の友人、永川。コンビニという場を介在し、四人はいつのまにか小さなグループを形づくる。
富山が張り巡らせた見えない壁を、三人は、それぞれのやりかたで乗り越えようとする。繊細にして大胆な、彼らの距離の縮め方がチャーミングだ。富山のひとり語りで話が進むために、彼自身の魅力が直接的に語られる場面は少ないが、的確な批評性があり、正直で嘘のない富山の個性は、自分なりの表現を模索する若者をひきつけずにおかないことがわかる。計算のない彼らのアプローチに、強固だった富山の壁もボロボロ崩れていく。
小説に出てくる「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」は今年三月まで実際に放送されていた番組で、ほかにも、深夜ラジオファンにはおなじみの番組への言及がある。数々の新しいソーシャルメディアも登場、人と人との空間的・心理的距離感が巧みに表現されている。