『君の名は。』大ヒット 新海監督オススメSF作品は

レビュー

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小説君の名は。

『小説君の名は。』

著者
新海, 誠, 1973-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784041026229
価格
616円(税込)

書籍情報:openBD

『君の名は。』大ヒット 新海監督オススメ本は

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 映画『君の名は。』の勢いが止まらない。公開からわずか28日で、なんと興収100億円を突破。新海誠監督がみずから書き下ろして先行発売した『小説君の名は。』も、刊行3カ月で100万部を超えた(小学6年生になる娘のクラスでも大人気だそうです)。

 小説版の特徴は、たがいの体に入れ替わる二人の主人公それぞれの一人称で書かれていること。田舎の女子高生・三葉(みつ は)(=私)と、東京の男子高生・瀧(=俺)。映画の進行に沿って、双方の視点から見た出来事が細やかに語られてゆく。

 小説だけのエピソードや裏設定は存在しないので、映画の一部を切りとったという印象が強いものの、新海誠らしい繊細な文章を読みながら、映画の余韻に浸ることができる。小説を先に読んでも映画の感動が損なわれる心配はないだろうが、できれば先に映画を観ることをお薦めしたい。

『君の名は。』大ヒットの効果は、意外なところまでトリクルダウンしている。臨死体験をテーマにしたコニー・ウィリスの現代サスペンス『航路』が急に売れはじめたのもそのひとつ。ハヤカワ文庫版の帯に新海監督が推薦コメントを寄せているのと(新海監督の前作『言の葉の庭』では、登場人物の本棚のショットにこの本が映る)、映画公開に先立つ監督インタビューで『君の名は。』に関連するオススメのSF作品のひとつとして『航路』の題名が挙がったのが原因らしい。

 同時に言及されているあと2冊が、アーサー・C・クラークの古典的名作『都市と星』と、現代SFのチャンピオン、グレッグ・イーガンの短編集『祈りの海』。

 前者は、10億年続く未来都市ダイアスパーに生まれた少年が世界の秘密を発見してゆく過程を瑞々しく描く、王道のSF長編。

 後者は、日本SFにも大きな影響を与えた超ハイレベルな11編を収録。最先端の科学的知見をネタに“自分とは何か?”という本質的な問題に迫る。1編めの「貸金庫」は、毎日違う人間として目覚める(宿主から宿主へと意識が乗り移る)男の物語。『君の名は。』と通じる部分があるかも。

新潮社 週刊新潮
2016年10月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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