『特攻 なぜ拡大したのか』 大島隆之著

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特攻なぜ拡大したのか

『特攻なぜ拡大したのか』

著者
大島 隆之 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344029699
発売日
2016/07/27
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『特攻 なぜ拡大したのか』 大島隆之著

[レビュアー] 安藤宏(国文学者・東京大教授)

 昭和十九年十月、戦闘機に爆弾を搭載して敵艦に体当たりする「特別攻撃隊」が発案され、以後敗戦まで、玉砕した若者の数は四千五百人に及んだ。筆者はディレクターとしてその背景を十年にわたって取材し、成果は昨年八月のNHKスペシャルに結実、大きな反響を呼んだ。本書はこの時紹介できなかった多くの資料を増補して書籍化したものである。

 もと直掩(ちょくえん)隊員(敵艦まで特攻機を護衛する)の挿話に始まり、参謀、隊員らの日記、証言テープ、最後の肉声、アメリカ側の記録など、事態はさまざまな角度から検証されていく。著者は繰り返し問う。なぜ「特攻」は食い止められることなく、拡大を続けたのか、と。潔く戦死していったケースばかりではない。操作を誤って途中で爆弾を落としてしまい、故意と疑われるのをおそれて自爆した例もある。戦果を発表後、実は不時着していたことがわかり、強引に「戦死」と“処置”されてしまったケースもある。中には新妻への想(おも)いを断ち切れずに引き返し、卑怯(ひきょう)者、とののしられて再度送り出されて墜落死した者もいた。

 玉砕していく戦友を前に、自分は生き残っている、という負い目が、より潔くありたいという自尊心を生み、集団を支配していく。上官もまた、部下を死なせた負い目が次の訓示をより過激なものにする。隊員の死をムダにしたくない、という思いが、戦果の報告を水増しさせ、結果的に効果の算定は過大に見積もられ、次の作戦の立案に影響していくのである。本書から浮かび上がってくるのはこうした幾重にも折り重なった巨大な負のスパイラルだ。たとえ次元は違っても、今日のわれわれがなお、この種の集団心理を日常で無意識に内面化し、再生産していないとどうして言えようか?

 歴史に意味のない死など一つもありはしない。教訓、の一語で片付けるにはあまりに傷ましい真実ではある。

 ◇おおしま・たかゆき=1979年生まれ。NHKエンタープライズ・ディレクター。戦争、災害を題材に番組制作。

 幻冬舎 1600円

読売新聞
2016年10月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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