『巨大数』 鈴木真治著

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巨大数 (岩波科学ライブラリー)

『巨大数 (岩波科学ライブラリー)』

著者
鈴木 真治 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000296533
発売日
2016/09/06
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『巨大数』 鈴木真治著

[レビュアー] 岡ノ谷一夫(生物心理学者・東京大教授)

 落語「寿限無(じゅげむ)」に出てくる「五劫(ごこう)のすり切れ」の劫とは「天女の薄衣が大石を摩耗する時間」とされている。数学者リトルウッドは具体的な条件を立てた上で、これが10の35乗年であると述べている。ちなみに、宇宙の年齢が10の10乗年程度であることを考えると長いが、サルがでたらめにタイプライターを打ってコナン・ドイルの小説を書くには10の300万乗年かかるそうで、短いとも言える。

 ニーチェが永劫回帰の着想をえた9年後、数学者ポアンカレが、宇宙の素粒子配列が偶然今と同じになるまでの時間として回帰定理を発表している。物理学者ペイジはこれを10の10乗の10乗の10乗の10乗の1・1乗だという。最後の1・1が気になるな。永劫回帰を1度するだけでも宇宙がいくらあっても足りないことは確かで、この人生が偶然再現されることは、まあないな(これは私の諦観)。

 本書はこういう話が満載で、あきることがない。人間は宇宙を超越する巨大数を作り上げてしまった。詩人エミリー・ディキンソンによると「脳は空より広い」が、この小さな本は脳より広い。(岩波書店、1200円)

読売新聞
2016年10月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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